おいしくない投資教育

投資、あるいは資産形成は、お金の問題である。お金ほど、味がなく、量だけが問題となるものもない。お金は全てを同一の基準で測定する最も抽象的なものだからである。ちょうど、全ての食品をカロリーで一元的に測定するようなものである。しかし、資産形成において、お金の量だけが問題なのか、そこに味はあり得ないのか。

では、投資の味とは何であり得るか。一つには、ゲームとしての楽しさであるが、投資を資産形成として位置付けたときは、その味として不適当である。資産形成の味は、形成された資産を取り崩すところにあるのではないか。例えば、資産形成の目的が豊かな老後生活にあるのなら、その生活の豊かさが味ではないのか。

さて、食事の必要性について、教育の必要はない。しかし、栄養学は教育であり、そして、栄養学は食事の必要性の認識を前提としたうえでなりたつ科学である。例えば、現代社会の病理として、肥満や偏食が問題だからこそ、国民の健康維持の視点から、栄養学による教育が必要になるのである。

同様に、資産形成で実現する生活の楽しさ、おいしさが理解されれば、資産形成の必要性についての教育は不要となろう。その後に残った投資教育は、巷の投資教育のような味のない技術論、おいしさ抜きの栄養学ではなく、例えば、豊かな老後生活のための資産形成のように、資産形成と生活との関連において成立する栄養学、偏りやゲーム的嗜好を排するための栄養学になるであろう。

投資教育に関心がないという人が大勢いるという事実から、国民の資産形成に関する知識の不足を導き出し、だからこそ投資教育が重要なのだと結論することは誤謬である。素直に考えて、それは巷の投資教育が味のない栄養学だからであり、そこに楽しさも、おいしさもないからである。

投資教育以前の問題として、資産形成によって実現する豊かな消費の楽しさ、おいしさが理解されなくてはならない。そのためには、投資が安定的な成果を生まなくてはならない。馬鹿馬鹿しく自明なこととして、投資が成果を生んでいないなかでは、そもそも投資教育など無意味なのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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