愛煙家の金正恩氏はやはり危ない!

2020年04月22日 11:30

世界の独裁者は実際に亡くなるまでメディアなどで何度も自分の「死亡説」を聞く。独裁者の死を期待する声が多いからだけではない。独裁者は常に自身の死亡(殺害)説と向かい合って生きているからだ。それゆえに、というか、独裁者はその運命に抗するために一層、強権を振るうことになる。

▲ヘビー・スモーカーの金正恩氏、米朝首脳会談の休憩時間にもタバコ一服(CNNの放送中継から)

▲ヘビー・スモーカーの金正恩氏、米朝首脳会談の休憩時間にもタバコ一服(CNNの放送中継から)

「誰」のことを書いているのか、といえば、今年1月に36歳になったばかりの朝鮮労働党委員長の金正恩氏のことだ。33歳のイエスが十字架にかけられた年齢は過ぎたが、死亡説が流れるにはやはり早すぎる年齢だ。もちろん、金正恩氏の圧政に苦しむ国民にとって1年でも長すぎるが、一般的にいうと、36歳はまだ若い。その金正恩氏がひょっとしたら今、重症のベッドにあるかもしれないのだ。ちなみに、韓国大統領府は21日、「金正恩氏の身辺に特異動向は見当たらない」と、重症説を否定している。以下、少し、情報を整理したい。

CNNは20日、米情報機関筋の情報として、金正恩氏は12日に心臓の手術を受けたが、術後、容態が悪化したという。一方、北朝鮮情報では最も多くの内部情報網を有する北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」によると、金正恩氏は心血菅の手術を受けたが、今は少し回復して、別荘で療養中という。両者の情報で共通点は、金正恩氏が心臓関連の手術を受けたという点で、相違点は一方は「重症説」、他方は「回復説」だ。

次は、なぜここにきて金正恩氏の健康問題が報じられるのかだ。祖父の故金日成主席の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を太陽節の4月15日に参拝するのがこれまで慣例だったが、金正恩氏は2012年4月に政権を掌握して以来続けてきた参拝が今年は確認されていない。初めてのことだ。その直前の11日、朝鮮中央通信(KCNA)によると、平壌の党中央委員会本部で開かれた党政治局会議に金正恩氏は出席していたから、それらが全て事実とすれば、金正恩氏は12日に、健康が悪化し、15日は“ベッドの上の人”となったという筋書きが浮かぶ。新型コロナの潜伏期間を思い出してほしい。

「重症説」を取るか、「回復説」を支持するかは別としても、身長170センチ弱、体重130キロの金正恩氏の健康状態が悪化し、フィットな状況からは程遠いことはほぼ間違いないだろう。

看過できない点は、金正恩氏がヘビースモーカーだという事実だ。だから、金正恩氏は中国武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)に感染し、肺器官をやられたのではないか、という憶測も可能だ。新型コロナの重症者はいずれも肺機能がやられ、呼吸困難状況に陥り、人工呼吸器が設置された集中治療室に運び込まれるケースが多い。

ハノイで開催された第2回米朝首脳会談(2019年2月27、28日)でCNNは休憩時間にタバコを吸う金正恩氏を撮影している。金正恩氏はチェコのバスラフ・ハベル氏(反体制派活動家で後日、同国初代大統領)や、中国の著名な反体制派活動家の魏京生氏に負けないヘビー・スモーカーだ。新型コロナが拡大している時、年齢的には若いが、愛煙家は新型コロナ感染の危険グループに入る。病状が軽いと判断して党政治局会議に参加したが、その夜、容態が急変し、重症に陥った、というシナリオが十分考えられるわけだ。

当方はこのコラム欄で「新型肺炎は金正恩氏を哲学者にする」(2020年2月26日参考)を書いたが、新型コロナウイルスが金正恩氏を哲学者にする前に、重症感染者にした可能性は排除できない。

金正恩氏にとって不幸なことは、心臓外科の専門医をフランスから呼ぶことができないことだ。金日成、金正日と続いてきた金王朝は過去、中国の軍人病院かフランスから医師を平壌に呼んで、手術を受けることが多かった。故金日成主席の場合はフランスのリヨン大学附属病院の心臓外科医が平壌に呼ばれている。しかし、新型コロナの感染拡大後、欧州の航空会社は飛行機を飛ばしていないから、平壌まで行くことが出来ない、その結果、今回は「金正恩氏の担当専門医が執刀した」(デイリーNK)というわけだろう。

昨年後半から金正恩氏の妹・金与正氏が金正恩氏の後継者に任命されたといった情報が流れてきた。金与正氏は金正恩氏が最も信頼する側近でもあり、南北首脳会談、米朝首脳会談では常に兄・金正恩氏の近くに待機し、ケアをしてきた。

問題は、幼い子供の母親でもある金与正氏が金正恩氏の職務を継続できるだろうかだ。このコラム欄でも「北の金王朝で『金与正』時代は来るか」2020年2月24日参考)を書いたが、金与正氏はヒロポン中毒だ。メタンフェタミン類の覚せい剤で中毒性は強い。それだけではない。人民軍幹部の支援がなくして金正恩氏がいない北朝鮮を導くことは難しい。金正恩氏の療養期間、その代役を務めることは可能だが、最高指導者としての役割を担うのは難しいだろう。

北朝鮮の朝鮮人民軍が3月2日、金正恩氏の指導の下で火力打撃訓練場で飛翔体を発射させたが、韓国大統領府(青瓦台)が異例の強い遺憾を表明し、即刻中断を要求した。それに対し、金与正党中央委員会第1副部長は3日、青瓦台を「不信と憎悪、軽蔑だけをいっそう増幅させる」(韓国聯合ニュース)と非難する談話を発表した。金与正氏名義の談話発表は初めてだった。金与正さんの批判のトーンが余りにも厳しかったため、韓国側も驚いたという。

ちなみに、米メディアによると、トランプ大統領は「金正恩氏から美しい手紙をもらった」と語ったという。それに対し、北側は19日、「最近わが最高指導部は米大統領にいかなる手紙も送っていない」と否定している。トランプ氏の認知症初期症状だろうか。それとも金正恩氏の死後、誰が平壌の権力を掌握するかを伺うために恣意的にフェイクニュースを流したのだろうか。

ひょっとしたら、トランプ氏は金正恩氏からではなく、金与正氏から「美しい手紙」をもらったのではないか。ただ、トランプ氏にはよくあることだが、金正恩氏と金与正さんを言い間違えただけではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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