金融も政党も…広がってきたオンライン記者会見を体験

新田 哲史

はやいもので4月も終わりが近づいている。政府の緊急事態宣言からまもなく3週間になる。

この間、アゴラでは池田信夫所長、篠田英朗先生を双璧に、コロナ対策への過剰な警戒に異論を唱え、ピークアウトの傾向を指摘してきたが、どうやら大型連休明けも外出自粛措置は延長する公算が強いようだ。

「コロナ自粛」が長期化するに連れ、メディアの取材現場も変革を迫られつつある。岡江久美子さんの死去に際しては、自宅に詰めかけた報道陣がソーシャルディスタンスをガン無視の姿勢だったことにネットでは怒りや呆れの声が渦巻いていたが、芸能メディアはどうもそのあたりの感覚が鈍いようだ。

進む企業会見のオンライン化

しかし、メディアの全てが昭和的なアナログ手法で取材をしているわけではない。往々にしてIT化の最前線である企業を取材する経済メディアの現場は、オンライン記者会見へのシフトがスムーズに進んでいる。

近年、編集長として「中の人」の役回りが多くなったので、企業記者会見の現場に行く頻度も減ってしまったが、アゴラと日頃コラボ企画でお付き合いのあるAIG損保から、初のオンライン記者会見のお誘いを受けたこともあって去る4月9日に参加してきた。

オンライン記者会見の様子(AIG損保提供)

記者会見のメインテーマは、発売中の任意労災につける新しい特約についてだった。AIGは去年すでに業界で初めてがん通院の治療費も補償する特約をつけたばかり。医学の発達もあって、がん患者になった人が働きながら治療をする時代になっていることは、以前AIGとのコラボ企画でアゴラでも紹介したことがあるが、今回はその流れにさらに対応すべく「治療による休業時の収入減も補償する特約」を新たにつけるという(プレスリリース)。

オンラインの記者会見は急増しているが、このときは緊急事態宣言発令2日後の開催。AIG側はケネス・ライリー社長ら出席幹部が自宅からの参加だった。ライリー社長によると、同社は3月後半から在宅勤務を進め、社内のウェブ会議には慣れ始めていた頃のようだ。記者会見は初めて社外の人を本格的に巻き込むとあって念入りにリハーサルをした上で臨んだ。

取材者側も習熟の必要性(私も…😅)

ライリー社長は書斎らしき部屋にいて、よくみると、だるまが棚の一角に飾ってあったりして自宅からの参加風景はたしかに「斬新」だった。というのも、損保や銀行といった金融業界は、セキュリティ重視で、リモートワークと縁遠いイメージがあったからだ。

自宅と中継で話すライリー社長(AIG損保提供)

AIGが使ったアプリはシスコシステムズが母体のCisco WebEXだった。セキュリティ専門家の大元隆志氏も指摘するように、Cisco WebEXはいくつかあるサービスの中で安全性の評価が特に高いようだ。

一方で、ライリー社長をはじめ、出席幹部の感想としては「記者の皆さんのリアクションが見られないところは、多少気になる」と述べたように、遠隔ならではの難しさも。それは記者サイドも同様で、初めてのツールだとそれに習熟する必要もある。

実はご多分に漏れず、私も会見で質問がしそびれてしまった。先述した社長の感想や、参考にした幹部のコメントは、あとで広報を通じてもらったものだ(広報さん、お手数かけてすみませんでした)。

オンライン記者会見といえば、IT系が積極的にやってきた印象があるが、コロナ禍が長期化すればするほど、これまで馴染みのなかった企業、業界にも広がっていきそうだ。

永田町では自民党がZOOM会見

そして、今月はもう1件、オンライン記者会見に参加したが、こちらは企業取材よりアナログなイメージのある取材現場、永田町だ。もちろん今回は、永田町には行ってないのだが、自民党青年局が先週金曜(24日)に開催したオンライン会見に自宅から参加させてもらった。

自民党青年局のオンライン記者会見(4/24)※記者の名前と顔は加工

こちらのツールは、皆さんが一番慣れつつあるZOOM。ただ、やはり政治記者は経済記者ほどITは得意でないためか、自分のマイクをミュートしていないため、子どもの叫ぶ声らしき音が入ってきて注意を受ける一幕も。あるいは、離れた記者クラブから参加していた朝日の記者が質問しようとしたら、機器の不調でライバルの読売記者のPCを借りて質問してきたときは、参加者から一様に笑いが起きたりとハプニングもあった。リアルの会見と違い、記者側の動きが見えないので質問のタイミングを量るのも難しい。

とはいえ、自民党青年局は、おなじみ小林史明さんが局長に就任してから、オンラインの記者参加の環境を整備してきた。

オンライン記者会見でコメントする小林青年局長

近年は私のように小所帯のネットメディアやフリーランスの記者が掛け持ちで取材をしているが故に、狭い永田町の中でもたとえば議員会館にいて党本部の記者レクに間に合わないという事態も少なくない。コロナ収束後もオンラインを積極活用することで、こういう不便は明らかに解消されるし、それは取材する側も、される側も効率的に動くことができるから、今後も期待はしたい。

ちなみに、この日特に多かった質問はこちらもIT絡みで、衆院静岡4区補選で活用されたネットため書きの話だった。SNS経由で応援メッセージを書き込むと、自分の名前入りで候補者推しのコメントが出るもので、選挙業界でもひそかに話題になっている。これは企業のマーケティングでも生かせる部分があるはずだ。

「オンライン記者会見元年」を有効に

さて、実際、IT系の記者によるオンライン会見体験記を読むと、同時刻に開催される記者会見を「はしご」することも可能になる。もちろん、実際に現場にいて、質問を投げかけ、相手がどんな表情をするか、言葉とは裏腹に何か考えているのか、会見の冒頭発言と比べて矛盾がないか等、目を見て話すことが基本であることに変わりはない。

それに何より公の場である記者会見で「特ダネ」が生まれることもない。裏ルートを駆使した取材競争は記者会見がオフだろうが、オンだろうが本質は変わらない。

とはいえ「オンライン記者会見元年」は、コロナ渦により是非を問える間もなく、もう始まってしまった。取材する側、される側、皆で経験を積み上げながら、よりよい場づくりをしていければと思った次第だ。

経営陣や広報の人たち、政治家、秘書さんたちとそんな話題を一献傾けながら懇談するにしても、“ZOOM飲み”ではなくて、リアルの飲食店で出来る日が来るといいですね。