欧州:コロナは国民の消費志向をも変えた

2020年04月28日 11:30

スイス公共放送協会のウェブサイト「スイスインフォ」からニュース・レター(4月22日)が配信されてきた。その中で興味深かった記事は、新型コロナでスイス国民の消費傾向が変わったことだ。ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング (NZZ)日曜日版が報じた内容だ。

新型コロナ危機でスイスインフォもテレワークを導入(2020年4月26日、スイスインフォ公式サイトから)

スイス国民が消費生活でより多様性、グローバル化を求めた結果、というのならば分かるが、現実は、新型コロナに強制されて日常の消費生活を変えざるを得なくなったのだ。その点、スイスだけではなく、当方が住むオーストリアでも同じだ。

NZZの調査記事に戻る。スイス郵便の貯金部門ポストファイナンスが調査を実施したもので、2019/2020年の消費行動を比較したもの。期間はいずれも3月16日から4月14日の間。

営業活動が禁止、ないしは制限された3月中旬から、例えば、衛生用品・化粧品への支出は前年同期比で53%減少。外出が制限されているので化粧品への需要が減少するのは当然だ。同時に、「被服費は5割以上減少し、靴への支出は80%以上減少した一方、食品への支出は18.6%増加した」という。新型コロナの感染拡大で国民の外食が減り(80.1%減)、床屋、美容院に行く人が減った。

それだけではない。現金払いに拘るスイス国民も小銭や紙幣にはウイルスが付着しやすいという理由からキャッシュレス化が進んだことだ(NZZによると、現金引き出しはマイナス48.4%と急減)。店舗側は従業員への感染防止のため「カードで支払いをお願いします」と呼び掛けている。また、デリバリー(配達)を利用する消費者が増えたという。

高齢者は感染危険の高い年齢ということで、外出を控えるように政府から呼びかけられている。だから買物もデリバリーで済ます高齢者が増えた。配達人が買物をドアの前まで運ぶ。顧客はドアを開けず、返事すれば届けたことを確認した配達人は帰る。支払いは基本的にはオンラインで済ます。現金のやり取りはその間一切ないうえ、配達人と顧客との接触も基本的にない。ソーシャル・コンタクトのない社会がこのようにして誕生するわけだ。

スイスの調査結果はサプライズではない。オーストリアでも、外出自粛が呼び掛けられ、職場からホームオフィスが奨励され、家庭で時間を過ごす人が急増した。同時に、近くの日常品店が閉店されたこともあって、多くの人々は大規模スーパーに駆け込み、日用品、パン、ライス、スパゲティー、保存用ミルクから、トイレットペーパー、消毒剤、洗剤まで買い込む人々で溢れた。感染防止に不可欠のマスクは薬局から消えて久しい、といった具合だ。

制限措置の一部解除で、スーパーでの買い占め減少は減ったが、人が普段好んで消費してきた商品、食糧はやはり手に入れるのが難しい。当方にとっては、ライスだ。驚いたことは、胚芽(イースト菌)が店舗で直ぐに売り切れてしまうのだ。多くの人々が自宅でパンを作り出したからだ。小麦粉に胚芽があれば簡単なパンは作れる。その意味で、胚芽は新型コロナが生み出したヒット商品となったわけだ。

ちなみに、オーストリアでは買物時や地下鉄、バスに乗る時はマスク着用が義務化された。しかし、薬局店には久しくマスクはない。その結果、ネットなどでマスクの手作りを学び、家庭でマスクを手作りする人が増えてきた。我が家も簡単手作りマスクだ。マスクを求めて市内を彷徨う必要もなくなったので、感謝している。

オーストリアのクルツ首相(33)は欧州でもマスク着用を最初に義務化した政治家だ。同首相は、「マスクの着用は欧州の文化ではないが、相手に新型コロナウイルスを感染させないためにも大切だ」と説明し、アジアから学ぼうと国民に呼びかけている。消費傾向だけではなく、文化さえも変わってきているのだ。

このコラム欄で「新型肺炎と“Stay at home”ビジネス」(2020年3月10日参考)という記事を書いたが、世界経済が苦境の時にも営業業績を伸ばしている企業がある。感染防止用のマスクの製造業者や消毒液メーカーだけではない。

英紙ガーディアンによると、米国の大手通信販売アマゾン(Amazon)とオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信会社ネットフリックス(Netflix)だ。CNNビジネス電子版は2日、「Coronavirus is helping Netflix, Amazon and other “stay at home” Stocks.」と報じている。スイスでも、マルチメディアの利用が前年同期比で26.2%増えている。

コンサートや映画館が閉鎖され、サッカー試合は中止されるなど、イベントや娯楽が少なくなる一方、学校や大学は休校となるので、高齢者ばかりか、若者も自宅にいる時間が急増した。その結果、アマゾンやネットフリックスが配信する最新米国映画、シリーズものを見る機会は増える。「風が吹けば、桶屋が儲かる」といった論理ではなく、非常に現実的な展開だ。

新聞業界にとって朗報は、新聞を読まなくなった人々が新聞に目を通すようになってきたことだ。NZZによれば、新聞(雑誌を含む)の購読者が前年同期比で4%と僅かだが増えている。ネットだけではなく、紙メディア媒体へのニーズが出てきているのだ。

新聞業界はこの機会を大切にしなければならない。国民は新型コロナ関連の情報を求めている。新型コロナは「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」といわれている。新聞業界は正確で客観的な報道を提供するメディアとして、底力を発揮できる絶好のチャンスを迎えているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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