コロナ対策に役立つBCG仮説の立証を急げ

死者数に大差がついた背景

更新される新型コロナウイルスの感染・死者数の表を見て「うーん、国別にみると、何故こんなに大差がついているのだろう」と、考え込む毎日です。それを説明するBCG仮説(接種国は感染者も死者も少ない)が浮上しています。早く立証し、今後の見通しに役立てるべきです。

BCG接種用の管針(Wikipedia)

米国の感染者が100万人を超え、死者も5万8千人、世界最多です。世界全体では感染者310万人、死者21万6千人(5/28日)、感染拡大の勢いは止まりません。その一覧表を見ると、感染者が10万人超、1万〜10万人、1万未満の国に大別されます。人口に差がありますから、例えば100万人当たりで比べるとかも必要です。

日本は感染者1.4万人、死者400人で、主要国の中では最も少ないグループです。ニューヨークの病院勤務の日本人医師がテレビで「2週間後に日本もニューヨークのようになる」と語り、恐怖にとらわれた人も多い。「日本だけが例外ではない。これからだ」との声は少なくありませんでした。

厚生省の対策班の北大・西浦博教授は、テレビに登場する常連の1人で「事態を放置すれば、42万人死亡」と述べ、首相や都知事が推進する「対人接触7,8割減」の根拠になりました。正体不明のウイルスですから、最悪の事態を想定して対処しなければならないにせよ、42万人と400人との落差は大きすぎる。

世界保健機関(WHO)の事務局長上級顧問という肩書の渋谷健司医師も、ワイドショーで「日本はすでに手遅れ、感染爆発の初期段階にある」と語りました。この人物は「上級顧問」でなく、「WHO勤務の経歴のあった職員」のようです。この人の発言は「最悪事態の想定」ではなく、「近づく将来」の予測でした。

大統領や首相が死者予測数を誇大に強調し、それより少ない結果に収まれば、自分の功績のように言う。それが政治家に多い手法ですから、間引きして受けとめるでしょう。専門家の教授や医師がそれをやると、信じ込む人も多い。それらを排除するためにも、BCG仮説の立証が望まれます。

ノーベル生理学・医学賞の日本人受賞者はBCG仮説をどのようにみているのでしょうか。大村智・北里大名誉教授は日経の1面インタビュー(4/24日)で「米国やイタリアなどで死者の割合が高いのが気になる。ウイルスの性質によるというよりも、一定の人口比を占める貧しい層が犠牲になっているのではないか」と、指摘しました。

さらに「国民皆保険で誰もが同じような診察を受けられる日本とは明らかに違う」と、貧困層の存在、保険制度の有無には言及しています。BCG仮説に対する言及はありません。

山中伸弥・京大教授はどうでしょうか。同じ連載インタビュー(4/20日)で「日本だけ特別に感染が広がらない理由があったらうれしいが、楽観的過ぎる。有効なワクチンや治療薬が開発されるか集団免疫ができるまで対策を続けなければならない」と、語りました。BCG仮説に触れていません。

山中氏は自身のホームページでも「BCGには、結核以外に、様々な感染症への予防効果があることが以前から指摘されている。新型コロナに対してはどうか、オランダ、オーストリア、英、独で臨床実験が行われている。その結果を待つ必要がある」と、述べるにとどめています。

生物地理学者のジャレド・ダイアモンド氏(「銃・病原菌・鉄」の著者)はどうか。「自国だけは例外と考えることが危機を乗り越える障害となる。米国、中国と同様に感染者や死者が増えるリスクが日本にもある。重篤な症状に陥りやすい高齢者の割合が世界でもっとも高いことを考慮すべきだ」と、素気ない見解です。

BCG仮説は「日本だけが例外的に感染者・死者が少ない」の意味ではありません。BCG接種を義務づけている国は日本と同様に感染者・死者が少ないことがネット論壇でしばしば指摘されています。接種義務のない米国、イタリア(死者2.6万人)は多く、やめてしまったスペイン(2.2万人)も多く、今も実施しているポルトガル(千人)は少ない。この仮説は感染症の正体を判断する手がかりになります。

日本ワクチン学会は「この仮説は確認されたものでなく、否定も肯定もできない。主たる対象は乳幼児であり、接種が増大して、定期接種としての乳幼児への安定供給に影響が出てはならない」とのコメントを出しています。高齢者は乳幼児の分を横取りするな、という意味でしょう。

BCG仮説を立証する意味は、高齢の感染者に使うというより、「接種国の死者数が少ないこととBCG接種の間に因果関係がある」のならば、「接種国は感染を過剰に恐れる必要はない」、「社会経済活動の過大な自粛も避けてよい」と判断する根拠に使えるということでしょう。

NHKのニュースで先日、「千葉の高齢者施設で多数の死者」とか、「保健所に電話が殺到し、業務の遂行が崩壊寸前」とか、「病院機能はマヒ状態で、予断を許さない状況が続く」とか報道していました。切迫する危機感を伝えることこそ報道の仕事を考えているようで、それが視聴者を過度に不安にさせている一因だと思います。

BCG仮説は報道姿勢の正常化に役立つはずです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。