政府性善説に異論。マイナンバーカードの拡大利用への疑問

5月1日の「事実を確認しないで論評するのは伝統芸」というタイトルの山田肇さんの論に、わたしがマイナンバーカードの拡大利用への危惧を述べたが、「事実確認しない論評はやはり害悪」との反論をアゴラで拝見した。

マイナンバー法があり、それは出来ないという。法的には「クレジットカードの使用状況を収集する事務は含まれていない」という内容だ。要は法律というハードで禁止され、政府が恣意のままは出来ないというものだ。そのような考え方もあるのか、というのが正直な印象だ。

法律にあっても政府は人権にかかわる場合には抑制的に動くことが多い、とも言われるが、現政権の多くの道理に合わぬ行動を見ると、とても政府性善説に、くみすることは出来ない。

膨大なマイナンバー法条項から、新しい解釈が生まれかねないこともあながち否定はできない。最近、法の番人の法務省で新しい解釈があったばかりだ。

現在、マイナポイント事業「マイナンバーカードでマイナポイント」と、うたう総務省のホームページには、以下の説明がある。

キャッシュレスでチャージまたはお買い物をすると、マイナポイント25%(上限5,000円分)がもらえます、とある。その中のYouTubeを見ると、プラスチックのマイナンバーカードの番号情報をスマホに読み込ませるものだ。

総務省は9月から実施予定としており、「マイナンバーカード本体を使用することはない、買い物履歴を国が把握することは出来ません」との説明があるが、マイナンバー法がその法的根拠だ。

関連の報道にはまた、総務省はすでに9月から実施予定のマイナンバーカードを活用したポイント還元制度について、ポイントの還元先になる決済サービスの一覧を発表した、とある。

「マイナポイント」公式サイトより「PayPay」「Suica」など21種類が対象で、還元制度は、マイナンバーカードの取得者が対象。特定のキャッシュレス決済サービスで一定額を前払いしたり、商品を購入したりした場合に、国費でポイントを還元する。期間は9月〜2021年3月までと、分かりやすい。

マイナンバーカードのすそ野はこのように、どんどん広がっており、「マイナンバーカード情報が入ったスマホを落としたら…」の危惧は当然生まれよう。

かつて日本の通信業界は、「音声もクリアな世界一高性能な」携帯を開発した。しかし米欧は少々ノイズがあるが、第2世代移動通信システム (2G)のGSMにとどまり、世界を制覇した。

利便性と高性能の道は、人間の欲望だが、日本の官民技術陣の「よいことを目指す」その姿勢には戦略がなかった。マイナンバーカード多面的利用にも、何やらその影を感じる。アメリカでも分割その他で、ナンバーを聞かれるソーシャル・セキュリティカードのように、紙片のまま保管のほうでいいのではないか。

現に国税庁が、最初のマイナンバーのオンライン確定申告受付も、ICカード読み取り機とプラスチックカードによるものだった。いまは税務署でパソコン登録すれば、パスワードが本人に送られ、パソコンどころか、スマホで確定申告が出来る。お堅い国税庁も暫定措置と言い訳しているが、こちらの利便性は逆戻り出来ないのではないか。なにしろ好評だ。

マイナンバーカード「クレジットカードの使用状況を収集する事務は含まれていない」とする「である論」は、論理では確かにそうであるが、将来をみると不安要因が高まるのが私感だ。

なぜマイナンバーカードの拡大利用が大きくなるのか、総務省の意気込みはなぜなのか。

新型コロナでの10万円給付金の申請はネットか郵送となったが、オンライン申請にはマイナンバーカードが必要としている。世間はどう見るのか。国が違うので、何とも言えないが、アメリカではソーシャル・セキュリティナンバーにある住所に、新型コロナ給付金の小切手が送られてくるという。