学校再開に舵を切った文部科学省を支持する

2020年05月06日 06:00

前回の私の記事「5月7日から速やかに学校を再開せよ」を執筆したのは4月27日だが、その時点では、宮城県知事が提唱した学校の9月入学・始業制に対して賛同する声ばかりが聞こえてきたし、テレビのワイドショーなども、話題になれば儲けものと思ったらしく、明らかにその方向に扇動していた。

「9月入学」検討を訴えた宮城県の村井嘉浩知事(NHKニュースより:編集部)

38年間と4カ月(半端がつく理由については前回述べた)、実際に教壇に立った経験のある私から見ると、とんでもない暴挙としか思えない案がトップダウンで決定されてしまうかもしれない。そんな危機感を抱いた私は、とにかく誰かが反対の声を上げなければならないと考え、アゴラに投稿させていただいた。

大急ぎで書いたので、あとから読み返すと、作家として決してほめられた文章ではないが、熱意は伝わったらしく、初めての投稿にもかかわらず、掲載していただいた。編集部には心から感謝している。

この問題については、その後、5月1日に鳥取県が全国に先駆けて5月7日からの県立学校の再開を宣言し、同じ日に文部科学省も「新型コロナウイルス感染症対策としての学校の臨時休業に係る学校運営上の工夫」を発表した。この通知の内容についてはあとで触れるが、9月入学制に関して全国の知事の間でも意見が分かれているようだし、これらを総合すると、どうやら、この先4カ月もの間、子供たちが宙ぶらりんの状態で放置されるという最悪の事態だけは回避されそうな情勢である。

学校の臨時休業に係る学校運営上の工夫に関する通知などについて会見する萩生田文科相(5月1日、文科省YouTubeより:編集部)

興味深いのは、一時あれだけ声高に9月入学制を主張していた教育評論家やコメンテーターの面々が鳥取県教育委員会や文部科学省を非難せず、口を閉じてしまっていることで、要するにあれは単なる思いつきのパフォーマンスだったのだろう。そんなものを真に受けなくて、本当によかった。

また、この問題に関して、オンライン授業の充実を求める声が多く、それについては私も大いに賛成だが、いくら準備を急いだとしても、ある程度の時間が必要だし、児童・生徒を実際に教室に集めることによって得られる教育的利点も数多い。やはり、たとえ毎日は無理としても、登校させながらオンライン化を進めていくべきだと私は考える。

文部科学省の通知の具体的内容は、学年ごとの分散登校などによって学級を分割し、身体的な距離を確保して、感染症のリスクを可能な限り低減しながら段階的に教育活動を再開するというもので、前回の私の提言と驚くほどよく似ていた。

自分の主張が文科省のお役人に影響を与えたなどとはもちろん思っていないが、子供たちの学びを何とか保障しようとする姿勢については評価したい。ただし、小学1年生と6年生、中学校3年生だけを優先させるという方針は、下手をすれば、現場に混乱をもたらす恐れがある。添付されている「登校日の実施の工夫例」では、1年生が週2日、2~5年生が週1日、6年生が週3日の登校となっているが、この通り実施して、学校がうまく回るとはとても思えないのだ。

新型コロナウイルス感染症に関する現状は地方によってまちまちなので、最終的にはそれぞれの自治体の教育委員会が自主性をもって方式を決定すればいいが、文部科学省が今回のような方針を打ち出した以上は、「可能な限り、最低週2日は登校日を設ける」と明記してもよかったのではないか。

また、この通知では給食を可能な限り弁当容器などで提供すること、集団登下校の際には距離を保つことなど、さまざまな注意点について述べているが、再開後に最も懸念されるのは、万一、学校で児童・生徒がウイルスに感染した場合、それを家庭にもち帰り、祖父母などの高齢者に感染させてしまうことである。この点については、特別に注意喚起をすべきだったと、私は考える。

数日前、元同僚にメールで実情を尋ねてみたところ、「今は思考停止状態です」と返信が来た。彼女は授業や行事の計画を立案する教務部に所属しているのだが、臨時休業が決まって以降、どのようにして年間の授業日数を確保するか、何度計画を作成しても、状況の変化によって使い物にならなくなり、完全に途方に暮れてしまったらしい。この例でわかる通り、現場は疲弊している。明らかに、そろそろ限界だ。

実際に学校を再開すれば、万全の対策を取ったとしても、日本のどこかでクラスターが発生する危険性はある。しかし、いつまでもこのまま立ち止まってはいられないのだから、たとえそのような事態になったとしても、マスコミが過剰な反応をすることは極力避けるべきである。

実は、私の家内は福島市内の学童クラブで代表を務めているのだが、話を聞いてみると、普段は「学校なんか嫌だ」と言っていた子供たちがすっかりゲームにも飽き、「早く学校に行きてえ!」と口を揃えているという。彼らの学ぶ意欲をいい方向に導いてやることが、今は何よりも重要である。

早々と5月いっぱいの休校を決めてしまった多くの自治体が今後、どのような判断をするか、注視していく必要があるが、子供たちの将来を考えると、文部科学省の指針に沿うのが順当であり、再び9月入学・始業制を蒸し返すのはいたずらに事態を混乱させるだけなので、絶対にやめてもらいたい。

愛川 晶  作家・元高校教員
1957年、福島県生まれ。筑波大学第二学群比較文化学類卒業。1994年『化身』(創元推理文庫)で第5回鮎川哲也賞を受賞する。主な作品に『六月六日生まれの天使』(文春文庫)、『高座のホームズ』(中公文庫)など。

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