“ICU決壊”に備えるべし ~ 欧州の医療崩壊と出口戦略への示唆

2020年05月08日 06:01

新型コロナの感染が爆発的に広がった欧米諸国の中でも、死亡者数は明暗がわかれる。特にドイツの死亡者数の少なさは顕著だ。要因として、「ドイツはPCR検査が徹底してなされているから」との説明がよくなされる。検査が十分がなされているので、早期感染者を見落とさず、手遅れにならず対処できている、といったことだ。

だが、他国も見比べると、この説明がどこまで有効かは疑わしい。検査数ではドイツとさして変わらないイタリアやスペインは、死亡者数は数倍。一方、アメリカは当初、検査体制整備の遅れが指摘され、検査数の累計は少なめだが、致死率は明らかに低い。

<表1>

この表からみると、欧米諸国で死亡者数の明暗をわけた、より重要な要因は、「ICUの制約」だろう。イタリアでは実際に、重症者がICUのキャパシティを超え、高齢者はICUに入れないといった選別を強いられたことが報じられた。データ上も、コロナの重症者数がICUの限界を超えた(イタリアのICU病床数全体の10%程度だったとみられる)3月8日頃を境に、死亡者数は顕著に急増した。

これに対し、人口当たりのICU数の多いドイツやアメリカでは、感染爆発に苦しみつつも、一定程度持ちこたえていると考えられる。“ICU決壊”を防げるかどうかが、重大な分岐点である可能性が高い。

<図1>

出典:厚生労働省資料などに基づき作成

日本では、これをどう受け止めるべきか。

まず、前提として、日本の状況が欧米諸国と全く違うことは、認識しておく必要がある。この点は、データをみれば明らかなのだが、誤解されている人も多い。マスコミなどで、欧米と同水準の感染爆発が起きている、さらには欧米より危ういかのような誤解を招く報道がなされがちなためだろう。

上記の表で人口あたり感染者数をみれば、欧米諸国とは桁が1つ違う。全く別次元の状況だ。これに対し、「日本は検査数が異常に少ないので、隠れた感染者が何倍もいるはず」といった異論もあるが、それならば死亡者数もみたらよい。死亡者数はごまかしのきかない数字だが、桁が2つ異なる。

以下記事でも触れたので繰り返さないが、「検査数が異常に少ない」に関しても、欧米諸国の感染爆発は日本と桁違いなので、検査も桁違いにならざるを得ないのは自然なことだ。「欧米は検査をたくさんやっていてすごい」と賞賛する話ではない。

こんなにある、PCR検査を巡るフェイクニュース(JB press)

ICU(岩国医療センターHPより)

そのうえで、日本の人口あたりICU数が決して多くないことには、留意が必要だ。ICUだけでみるか、ICUに準じたハイケアユニットなども含めるかで数値は異なるが、いずれにしても、アメリカやドイツには遠く及ばない。ICUだけでみれば、イタリアなどと比べてもはるかに少ない。

また、マンパワーを含む受入れ体制を考えれば、コロナ対応での日本の限界ラインは「1,000床に満たない」(ICU病床数の2割弱程度)との指摘もある。今後もし、欧米並みの感染爆発の波が押し寄せたときは、イタリアなどと同様ないしそれ以上に“ICU決壊”のおそれが否めない。幸いにして欧米並みの感染爆発を免れている今のうちに、体制の拡充が求められる。

メディアなどでは「検査体制の抜本拡充」ばかりを声高に唱える人も多い。たしかに現状では必要な検査が十分できていないから、今後の波に備えても拡大は必要だ。一方で、医療全体の資源が限られる中で、検査だけに過剰に資源投入すべきでもない。命を守る体制強化に十分に資源を投入すべきだ。

<参考>2020年4月1日一般社団法人日本集中治療医学会 理事長西田修氏の声明より抜粋

本邦には約6,500床ほどのICUベッドがあると推定致しますが、約4倍のマンパワーが必要であること、他の重症患者の受け入れも必要であることを考えると、このままでは、実際に新型コロナウイルス感染症の重症患者を収容できるベッド数は1,000床にも満たない可能性があります。無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達します。

地域レベルの局地的な“ICU決壊”にも警戒が必要だ。ICU病床数は地域によって偏りがある。例えば、東京は10万人あたり8.0、富山は3.4、石川は4.4だ。東京の感染者数の多さばかりが注目されがちだが、危機はむしろ地方にある可能性も高い。

各都道府県別 ICUならびにハイケアユニット等のベッド数

図2では、全く参考までに、都道府県別のICU「使用率」の試算を示した。誤解のないようおことわりしておくと、これは実際の使用状況ではない。都道府県別の感染者数および全国での重症化率データに基づき、コロナ対応に割けるキャパシティが2割と仮定して機械的に計算したもので、あくまで試算だ。

今後、国全体でも地域でも、「出口戦略」の検討が急務となる。一足先に公表された「大阪モデル」では、指標の一つとして「重症者用病床の使用率」が示された。これは、“ICU決壊”リスクに実際的に対応する項目だ。こうした先行例を参考に、地域ごとの実情に応じた検討が求められる。新規感染者数の推移だけに目を奪われ、安易に解除するのは危うい。地域の状況によっては、より強く“ICU決壊”への警戒を要する場合もあろう。地域ごとの実情を国民にも公開しつつ、合理的な「出口戦略」を提示してほしい。

<図2>

追記: 上記の表の中で、「厚労省ホームページ上で、ICU等の国際比較資料が削除された状態」と記載していましたが、以下に掲載されていましたので追記します。

ICU等の病床に関する国際比較について

(文責:原英史、情報分析および図作成:田村和広。オンラインサロン情報検証研究所内での議論も経て作成。)

※クリックするとオンラインサロンの案内ページへ飛びます

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
原 英史
政策工房 代表取締役社長

過去の記事

ページの先頭に戻る↑