ポストコロナ時代に求められる知事像

平木 柳太郎

新型コロナウイルス感染拡大の緊急事態により、都道府県知事の存在感が急速に高まっています。つい先日、毎日新聞が「最も評価する政治家」を尋ねた世論調査で、大阪府の吉村洋文知事を筆頭に、2位が東京都の小池百合子知事、4位に北海道の鈴木直道知事が続々と上位に挙げられ、話題になりました。

国政のリーダーよりも知事の仕事ぶりがこれほど注目されたのは私も記憶にありません。すでに吉村知事が国より先んじて出口戦略の具体的な指針を数値化した「大阪モデル」を提起して支持されていますが、記事にもあるように、発信力の高さ、独自の取り組みが評価されたわけですが、特に後者はリーダーシップが本当に問われるところです。

小池氏、吉村氏、鈴木氏(ツイッターより)

支持される知事像からの「学び」

ここ最近の現象から「学び」があるとすれば、コロナのような「有事」は、「平時」の感覚で国の動きを待ってから動く受け身ではダメだということです。あるべき方向性を指し示し、職員や専門家と徹底的に議論する。必要なら国の出方を待たず、基礎自治体や住民のニーズがあれば、むしろ先回りする。そして果断に政策判断を下す。すべてにおいて先へ先へと、ビジョナリーでなければならないのです。

特に今回、新型コロナ特措法では、都道府県知事には、財源的な制約(休業補償は義務ではない)があるものの、外出自粛や事業者に休業の要請ができる権限などを付与しており、個別の地域事情に応じて最適な判断ができるか、制度的に問われる形となっています。

知事の力量をどう推し量るべきか。もう少し具体的な「目安」を示してみたいと思います。先日、アゴラの記事でも紹介されていましたが、政治学者の大森彌氏(東大名誉教授)がリーダーとしての首長には三つの能力の有無が問われると指摘されています(参照:全国町村会HP)。これによると、

  • 表現の能力」〜他の人よりも少し早く、人々の悩みや困難や願望を見抜き、それを具体的な言葉・表情・動作で表すことができるか
  • 決定の能力」〜自治体は日々意思決定をしなければならないが、大小の意思決定を的確にタイミングをはずさずにできるか
  • 正統化の能力」〜自治体として、あることをやるかやらないか、どの程度までどういうようにやるのかには理由が必要であり、それを説得的に説明できなければならない。

という3つの能力があるのですが、大森氏がこれを書かれた2004年当時は平成の大合併の頃で、市町村合併の是非をめぐる首長の対応などが問われたと述べられています。それから十数年経ちましたが、コロナという刃はまさにより先鋭化し、これらの能力に対する評価を知事たちに突きつけているといえるでしょう。

行政も「VUCA」を意識すべき時代

そして今はネット時代もあってSNSを含めた発信力の重要度も増しています。冒頭の世論調査で名前が挙がった知事たちは、これまでのところ、課題のいち早い抽出から解決策の検討、苦悩しながらの意思決定、そして決めたことを具体的に説明・発信するというプロセスができています。だからこそ住民が信頼し、一体感を持って危機に当たれるわけです。

そもそもコロナ禍の前からも人口減少と高齢化、インフラの整備・更新、ポスト新幹線時代のビジョンなど、あらゆる難題が富山県を取り巻いていました。しかもそれらの難問に正解はないのです。

私は経営者から政治の世界に飛び込んだものですが、近年、ビジネスの世界では「VUCA」という言葉が注目されています。元は軍事用語なのですが、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉は予測不能、想定外や矛盾、葛藤が当たり前のなかでどう有効な戦略を取るかを示しています。ポストコロナ時代は政治・行政もVUCAを意識したものでなければなりません。

地元・富山でも勃興する新たな動き

さて、私の地元・富山県を振り返ると、知事選を今秋に控えております。ここまで4期を務めてこられた現職の石井隆一氏(74歳)に加え、日本海ガス前社長の新田八朗氏(61歳)が名乗りを挙げました。自民党がどちらの方に推薦を出すのか、一本化するのか、はたまた保守分裂選挙という事態になるのか、県民が注目しているところです。

新田八朗氏(左)と石井隆一氏

そうした中で、大型連休の終盤、このようなニュースが流れて富山を騒がせました。

秋の富山知事選  自民富山市連「現職は支持できない」ほかに擁立を(富山テレビ放送)

自民党富山市連とは、平成合併前の旧富山市選出の自民党所属議員(常任総務会)と同選挙区内の党員でつくる組織です(私も所属しています)。

記事の通りに読めば、市連の常任総務会(県議・市議)では、現職を指示する声が2人、新しい知事を求める声が19人となっています。クローズドの会合であり、この数字の真偽は明かせませんが、県都の富山市で大きな波が生まれ始めていることは否めません。

念のためですが、市連として推薦する人物の具体名が煮詰まったわけではなく、かつ自民党富山県連の判断を待つ状況であることを申し添えておきます。しかし、現県政の交代気運は、県民の中にも静かに広がっています。

先述したリーダーに必要な「三つの能力」、あるいは「VUCA」という概念をご存知でなくても、コロナで正解のない難問が続き、事態が混沌としていく中で、これまでのやり方でいいのか、県民感覚として違和感があるのでしょう。私も県議会の一翼を担う者として、いまの時代をとらえた地域課題の抽出と、解決策の模索・提案をしっかりやっていきたいと思います。

平木 柳太郎  富山県議会議員(富山市1区選出、自由民主党)