資産形成の前に家計管理

2020年05月12日 06:00

個人の資産形成については、投資教育が重要であるとされ、そこでは、常に、長期的な視点で、ということが強調されている。金融庁も、国民の安定的な資産形成を金融行政の目的としているくらいだから、投資教育を重要な施策に位置付けているわけだが、やはり、資産形成が長期的な性格のものだという前提は同じであろう。つまり、暗黙に、資産形成とは、老後生活資金形成であることが前提とされているのである。

画像:123RF

また、投資教育においては、様々な投資対象資産の期待収益率やリスク、その選択と分散などについて、解説の重点が置かれているが、どうかすると、投資の成果が資産を形成しているという錯覚を与えはしないか、加えて、長期的視点やリスクを強調することにより、リスクをとって長期間運用すると投資収益率が高くなるという印象を与えはしないかと懸念される。

資産形成というのは、一般に、ある将来の資金使途のために、現在の所得の一部を割いて、資金を積み立てることを意味するにすぎない。積み立てる期間は、使途によって異なるだろうし、積み立てた資産を運用して得られる収益は、確かに無視し得ないものではあるが、形成された資産の多くは、投資収益ではなくて、積み立てに充当された元手の資金である。

個人の資産形成は、資産運用である以前に、将来の消費という資金使途を通じて、また、現在の消費を抑制することを通じて、生活に深く結びついている。資産形成は、煎じ詰めれば、現在の所得の一部を、現在の消費に使わないで、将来の消費のために、取り除けておくことである。取り除けた資金を、どこに保管するか、貯金箱か、箪笥か、金庫か、銀行か、はたまた、投資信託という器かは、技術的な問題にすぎないのである。

故に、老後生活資金形成を前提とした投資教育は、働いている期間を通じて、所得の一定割合を資産形成に回して、老後、働くことをやめてからは、形成された資産からの所得と、その定期的な取り崩しによって、年金給付を補完して、豊かな暮らしをしようではないかという呼びかけから始めなくてはいけないのである。投資の技術論、その後の話である。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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