Winny栄光なき天才:金子勇の悲劇を繰り返さないために(中)

2020年05月12日 06:00

提言2:フェアユース規定の導入

(上)で紹介した提言1は手続法、具体的には訴訟法上の対策だが、この他に実定法、具体的には著作権法上の対策もある。

NHKスペシャルより

■フェアユースが認められそうなケースでは起訴に慎重な米国

「平成の敗北」と重なるウィニー開発者 金子勇氏の悲劇で紹介したとおり、米国著作権法には利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしの利用を認めるフェアユース規定がある。このため、法執行機関はフェアユースの抗弁が成立する可能性のある案件に対しては、起訴に踏み切るのは慎重である。

 『Winny天才プログラマー金子勇との7年半』を読む①で以下のように紹介した。

欧米の技術者は開発したソフトで金儲けしようとしたのに対して、金子氏はソフトを開発しただけだった。にもかかわらず刑事訴追され、一審では有罪とされた。しかもナプスターやカザーは民事訴訟で、Winnyのような刑事訴訟ではない。米国の著作権法にも刑事罰はある。ナップスターは会社側の発表によれば、ピーク時には7千万のユーザー数を誇るほど猛威を振るった。それでも起訴には踏み切らなかった。

■ハイスコアガール事件でも勇み足した検察

(上)で紹介したとおり、日本ではWinny事件最高裁判決が性急な捜査、起訴を戒めたにもかかわらず、法執行機関の行き過ぎはその後も改善されていない。その一例がハイスコアガール事件である。「ハイスコアガール」は1990年代のゲームやキャラクターが登場する人気漫画。「月刊ビッグガンガン」(スクエア・エニックス)に2011年から掲載され、大ヒットした。

Amazonサイトより

作品中に登場するゲームキャラを無許可で使用されたゲーム会社「SNKプレイモア(以下、「SNK」)」はスクエア・エニックス(以下、「スクエニ」)を刑事告訴。2014年8月、大阪府警はスクエニを家宅捜索し、11月には同社社員15人と漫画家を書類送検した。作者の押切蓮介氏も家宅捜索・書類送検の対象となった。これに対し、知財学者らが「『ハイスコアガール』事件について―著作権と刑事手続に関する声明」)を出し、刑事手続きの進行に反対した。

声明は「本件は著作権侵害が明確に肯定されるべき事案とは言い難い」と指摘した上で、「本件のように著作権侵害の成否が明らかではない事案について、強制捜査や公訴の提起等の刑事手続が進められることは、今後の漫画・アニメ・ゲーム・小説・映画等あらゆる表現活動に対して重大な委縮効果をもたらし、憲法の保障する表現の自由に抵触し、著作権法の目的である文化の発展を阻害することとなりかねない。従って、著作権侵害に係る刑事手続の運用、刑事罰の適用に対しては謙抑的、慎重であることが強く求められる」と主張し、「刑事手続が進められることに反対する」と結んだ 。

その後、中国資本がSNKの大株主になったため、2015年にSNKとスクエニは和解を発表したが、和解せずに裁判になっていたら結末はどうなっただろうか?「スクウェア・エニックスの著作権侵害の可能性はグレー!? 『ハイスコアガール』問題について福井健策弁護士に話をうかがってみた」は、5巻まで出版されている「ハイスコアガール」の著作権侵害について同弁護士の分析を紹介している 。

「まず(1)「複製」「翻案」に当たるか、そして(2)「引用」に当たるかという2点の帰すうによります。この二つが(1)YES、(2)NOとくれば、基本的に違法ですので、非はあるということになります。」とした上で、(1)についてYESに当たる可能性の高い部分とそうでない部分を具体例で解説。

(2)についてはまず、「他方、『ハイスコアガール』が90年代のゲームをめぐる若者たちの恋愛模様や青春群像を、実在のゲームを追いながら描いている作品の性質から考えると、ゲーム画面の利用が「引用」として許される可能性は否定できません。」と指摘。その上で、ここでも具体例を上げながら「ゲームの展開をメインで楽しませる要素もあり、このあたりを裁判所がどう判断するかが分かれ目になるでしょう」と結んでいる。

確かに引用が認められる可能性は完全には否定できない。上記、知財学者の声明も指摘するとおり、著作権侵害の成否が明らかではない事案だったといえる。声明はこうした事案に対して「強制捜査や公訴の提起等の刑事手続が進められることは、今後の漫画・アニメ・ゲーム・小説・映画等あらゆる表現活動に対して重大な萎縮効果をもたらし、憲法の保障する表現の自由に抵触し、著作権法の目的である文化の発展を阻害することとなりかねない」と危惧している。

■フェアユースの効用
フェアユースはアメリカでは「ベンチャー企業の資本金」とよばれるようにグーグルをはじめとしたIT企業の躍進に貢献、イノベーション促進に効果的とされている。このため、下表のとおり今世紀に入って導入する国が相次いでおり、導入国の最近のGDP成長率は日本より高い。

フェアユース導入国のGDP成長率

導入年 国名 GDP成長率(2018年)
1976年 米国 2.93%
1992年 台湾 2.63%
1997年 フィリピン 6.24%
2003年 スリランカ 3.21%
2004年 シンガポール 3.14%
2007年 イスラエル 3.44%
2011年 韓国 2.67%
2012年 マレーシア 4.74%
未導入 日本 0.81%

出典:GDP成長率は「世界経済のネタ帳」によった

日本でも知的財産推進計画の提案を受け、文化庁でわたり検討したが、最初の検討で実現した2012年の著作権法改正では骨抜きにされた。2度目の検討の末、実現した2018年法改正では少し前進したが、まだ米国型フェアユースには程遠い内容にとどまっている(詳細は城所岩生編・中山信弘ほか著『これでいいのか!2018年著作権法改正』参照)。

法執行機関の暴走がイノベーションを阻んだ金子氏の悲劇を繰り返さないためにも、フェアユースを導入すべきである。

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国際大学GLOCOM客員教授、米国弁護士(ニューヨーク州・首都ワシントン)

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