株主の出席を禁止してでも6月総会実施?

2020年05月12日 11:30

acworks/イラストAC:編集部

unknown 1さんのコメントで知りましたが、5月11日、議決権行使助言会社であるISSが新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえた ISS 日本向け議決権行使基準の対応(2020年6月1日施行版)」を公表しましたね。

決して「すべて反対推奨」ではありませんが、予想どおり「継続会方式(二段階方式)」による6月定時総会上程議案(配当、役員選任、報酬、会計監査人選任等)に対しては、かなり厳しい姿勢で推奨されることが明らかになりました。とりわけ剰余金処分(配当決議)については厳しい推奨基準のようです。総会ご担当者の方々は必読ではないでしょうか。

さて、5月11日夜の日経デジタル版ニュースにおいて「新型コロナ:株主総会『来場禁止』も容認 経産省が指針」と題する記事が掲載されました。おそらく、こちらの経産省指針「新型コロナ関連 株主総会運営に係るQ&A」の最終更新版を指して、経産省が「株主の健康・安全を最優先と考えて、株主の来場を一切禁止したうえで開催する株主総会も適法」との解釈指針を示したものと報じていると思われます。正確にQ&Aから引用しますと、

なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡 大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ない と判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。

と、示されています。連休前からリリースされております3月決算会社の決算短信をみると、たしかに決算発表を延期している会社も多いのですが、定時総会を予定どおり6月に開催する予定の会社も多いようです。おそらく、5月、6月に総会を開催する会社としては、できるだけ株主の出席を制限したうえで短時間で終了させることを検討していると思います。

計算書類、事業報告の監査が終了しているかぎりにおいて、6月の定時株主総会を断行することについては、株主の権利を合理的に制限した形で開催することはやむをえないのかもしれません(もちろん私は7月以降に延期すべき、との意見は変わりませんが)。3月末の配当基準日問題、6月総会終了時における役員新旧交代問題等、会社が大切にしている慣行を重視する姿勢は私も理解いたします。しかし、だからといって「株主に出席を禁止する」というのは問題だと考えます。

まず、会社法に詳しい方であればチッソ株主総会(決議取消)事件最高裁判決(昭和58年6月7日民集37巻5号517頁)との関係が思い浮かぶのではないでしょうか。会社が株主に対して会場に入場させず、株主総会に出席させないことは、通常は株主総会の招集手続または決議方法の瑕疵となり、総会の取消事由になると解されています(田中亘 企業会計2020年6月号  41頁「コロナショックにどう対応するか-会議体としての株主総会のゆくえ」参照)。

上記チッソ株主総会事件は、多数の株主が総会に出席すべく参集し、入場制限がなされた事案です。このような事態を予見することは会社にとって不可能であり、入場制限自体も不公正なものではなかったとはいえ、一部の株主が現に入場し得ずにいる状況下において、これらの株主の議決権行使につき何らの配慮もなされることなく、総会の延期等の決議もなく議事が進行きれたものとして、総会の決議には重大な鍛疵がある、とされました。

コロナショックによる株主、関係者の身体の安全確保のために、株主の出席に合理的な範囲で制限をかけることは適法だとしても、一切の株主の参加・現実出席を禁止することは、上記最高裁判決の射程範囲を検討しても違法ではないかと考えます。

そうはいっても

いやいや、チッソ株主総会事件は『議決権行使』が侵害された事案でしょ。あらかじめ議決権行使は保障したうえでの出席禁止なら最高裁判決の射程範囲を超えたものであり、合理的な権利制限といえるのではないか。

といった意見もあるかもしれません。ではつぎに、コロナ禍の株主総会との関係で、どこまで株主の権利制限が可能か…という点を考えてみます。これは「株主総会の民主主義と立憲主義」として考察します。

まず、株主総会への出席する権限が制限される根拠としては、「民主主義としての株主総会」が妥当します。つまり、権利を濫用する株主に対しては、議長が(株主総会の秩序維持の観点から)退場命令を出して株主の権利を制限できます(会社法315条2項)。

また、株主への権利制限が違法であったとしても、全体としての株主総会の意思決定機能に大きな影響がなければ権利制限も許容されます(会社法831条2項-いわゆる「裁量棄却」の発想)。会社運営の効率性を阻害する株主の権利主張まで保障されるわけではない、ということであり、これは多数決原理が妥当する場面だと思います。

しかし、会社の行為によって、そもそも多数決原理(民主主義)の根幹が喪失されかねない場面では、たとえ一株株主であったとしても、その株主の意見は尊重されなければなりません(いわゆる立憲主義の妥当範囲)。代表例でいえば株主平等原則(会社法109条1項)や、違法行為の差止請求権(会社法360条1項~3項)などが妥当する場面です。

今回問題となっている株主総会の場面では、株主には保有株式数に関係なく、招集手続きまたは決議方法に瑕疵ある場合における決議取消を求める権利(提訴権)が認められています(会社法831条1項)。そして、通説判例によれば、この提訴にあたり、株主は自己の権利侵害が認められる場合だけでなく、他の株主の権利侵害によって株主総会の意思決定に瑕疵が認められる場合にも提訴できる、とされています(江頭憲治郎「株式会社法・第7版」370頁)。

つまり、たとえ一株の株主であったとしても、当該株主総会の手続きが適正になされているかどうか、監視すべき権利は保証されなければならない(現実に出席したい意思があれば、会社はこれを最大限尊重しなければならない)ということです。

したがって、私は会社の(株主に対する)「出席禁止」は違法であり、また、たとえ合理的な出席制限措置であったとしても、議決権行使さえ保証されればよい、というものではなく、その「場としての」株主総会のプロセスの適法性を監視できること、つまり現実の総会運営が恣意的に行われていないことを監視しうる環境を整備してはじめて適法になるものと考えています。

この点が、(平時において)株主が出席したいと思えばできるのだが、現実には出席せずに議決権行使書面や委任状を提出する総会運営とは明らかに異なる点です。

連休前から各上場会社の決算短信を閲覧していて、たいへん気になるのは、(コロナの影響について)「重要な後発事象」に関する記載が(セブン&アイホールディングスほか数社を除き)ほとんどない、ということです。3月末決算会社にとって、おそらくコロナ禍が業績に及ぼす影響については、修正後発事象にせよ、開示後発事象にせよ、ほとんど把握できていないものと思われます。

有価証券報告書を提出する前に株主総会を開催するわけですから、そのあたりはどのように株主に説明するのでしょうか?コロナ禍だからこそ、もし株主総会を簡素化するのであれば、その分、ディスクロージャーには十分気を遣う必要があります。監査法人と協議のうえ、臨時に「ディスクロージャー委員会」を設置して、判明次第開示することを検討している会社もあるようですが、ごくわずかだと聞いています。

株主総会を延期することも「株主権の制限」に関わりますが、もともと会社法で認められている選択肢であり、6月総会の出席を制限するよりも、「より権利制限的でない選択肢」ではないかと考えています。私はやはり6月総会をこのまま開催することにはリーガルリスクが伴うものであり、7月以降に完全延期すべきではないか、と考えます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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