早く形を示せ、三菱のスペースジェット

岡本 裕明

三菱航空機のスペースジェットにまたも暗雲が垂れ込めています。同社の親会社である三菱重工の決算短信を見ると稼いでいるのがパワー(発電)、インダストリー(物流機械)で1991億円、一方、航空部門で2087億円の赤字となっており、同社グループ全体で見れば稼いだお金をスペースジェット事業に全部突っ込むといういびつな構造になっています。

(三菱航空機HPから:編集部)

(三菱航空機HPから:編集部)

そのスペースジェット事業、三菱の経営陣が恐れているのはコロナ後の世界であります。航空会社の経営破綻の声があちらこちらから聞こえてきており、時間と共にその破綻数が増えると予想される中、この航空機事業に本当に将来性があるのだろうか、という懸念なのでしょう。

そのため、今期はそれまでの開発費を半減させ、年600億円程度とし、開発計画も見直すというのです。日経には「(重工の)泉沢社長は今後の新型機の開発などについて『航空機業界の変化を見極める』と語った。しかし、コロナ禍で蒸発した旅客需要が以前のように戻るかは不透明だ。継続して開発費用を投じられなくなれば、事業の存続を判断する必要すら生じかねない」と厳しいコメントがついています。

現在、スペースジェットは90人乗りの開発については資金がかかる部分の峠は越えたため、型式証明の取得に全力を挙げ、開発資金を開発進行中の70人乗り飛行機の方に多く配分するということだと思いますが、開発費を前年の半分にするということはまずは90人乗りジェットの商用化を進め、70人乗りジェットの開発に資金を投じる大義名分を示せ、というふうにも理解できます。

三菱航空機側も社長が4月1日に交代し、それまでのアメリカ三菱重工の社長だった丹羽高興氏を起用、型式証明取得に全力を挙げてもらう体制にしています。

個人的にはここまで来たら何が何でも飛ばしてもらわねばならないと思っています。これは三菱グループだけの問題ではない、日本の技術力の意地だと思っています。初号機の納入予定は2013年、それから6回も納期遅延を発表し、現在の納期見込みは「21年以降」でいつかは予定すら明示していません。

飛行機の合格許可証である型式証明の取得は年代と共に困難になってきていました。これは飛行機に限らずあらゆる製造品の許認可に関し、性能の高度化とともに複雑化する構造やコンピューター制御の中身について当局がより詳細にかつ、保守的にチェックするようになっているためです。この複雑化、煩雑化する傾向はどの業界でも目先止まらないと考えており、それが正なら一日もはやく許可をクリアした方がブルーオーシャン化のビジネスが待っているということであります。

ホンダジェットは2012年に生産開始、15年から運用開始をしましたが小型ジェット機部門で3年連続世界一の出荷数の地位を誇っています。なぜかといえば開発費と許認可という壁があり、競合が出にくい中、それまでのセスナというライバル会社をいったん凌駕すれば新しい技術が市場を席巻するのは至極当然であるからです。

では三菱重工が杞憂する航空機の需要はどうなのか、でありますが、私は重工の泉沢社長の言わんとしていることがよく分からないのです。なぜならスペースジェットは名前こそ変えたもののもともとはリージョナルジェット(MRJ)という名の国内線や短距離線を視野に入れた開発だったはずです。とすればどちらかと言えば国内移動の手段が主力となるはずで、コロナで懸念される国際間の移動とは若干違うはずで今なくても新たに市場を生み出せる潜在力があります。

次に航空機市場ですが、欧米ではリースが主戦になりつつあります。市場の比率は現在リース:所有で45:55ですが、リースが今後主力になるのは確実視されています。私も今後、最も成長が見込まれる業種の一つが航空機リースとその関連事業と踏んで、そのような会社にも投資をしています。リースは航空会社は財務的にフレキシブルに対応できるメリットがあります。航空機業界内で効率的なビジネス体系の構築とその運用がより進めば航空業界の構造的変化も期待でき、個人的には明るい未来がある業態だと思っています。

スペースジェットの型式証明が取れないということはほかの会社がまねようと思ってもそう簡単にできないともいえます。ボーイングのMAXの行方が見えないのもそれぐらいハードルが高い世界であって、そこを超えてこそ、雲を突き抜け、眩しい太陽を浴びながら輝く機体が躍動できるというものです。

ここは新社長体制に期待し、本気度を示し、三菱重工にとっても自信につながる成果を引き出してもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月13日の記事より転載させていただきました。