バチカンが「教皇の訪中」準備中?

2020年05月15日 11:30

中国湖北省発武漢市発の新型コロナウイルスが世界を席巻して以来、ウイルスだけではなく、無数のフェイクニュースが流れているが、当方が信頼している海外中国メディア「大紀元」(5月13日)に、「ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が中国訪問を準備中か」というニュースが報じられていた。「大紀元」でなければ無視できるが、中国関連ニュースではおそらく最高級の情報源を有する「大紀元」が報じたとなれば、その真偽を考えざるを得ない。

▲サンピエトロ広場で新型コロナの終息を祈るフランシスコ教皇(2020年3月27日、バチカンニュース公式サイトから)

▲サンピエトロ広場で新型コロナの終息を祈るフランシスコ教皇(2020年3月27日、バチカンニュース公式サイトから)

当方は現時点ではフランシスコ教皇の訪中準備は純粋な憶測と考えている。理由は簡単だ。83歳のフランシスコ教皇が飛行時間10時間を超える中国までの長旅は体力的にかなり厳しい。極端にいえば、新型コロナウイルスの感染発生地の中国を訪問することは、高齢教皇にとって自殺行為だからだ。

バチカンは世界最高の高齢社会の国だ。その上、聖職者には持病持ちが多いから、無症状の聖職者から感染が広まれば、密閉、密室の多いバチカンだからクラスター(集団感染)が生じる危険性はかなり高い。イタリア国内では新型肺炎で既に100人余りのカトリック聖職者が亡くなっている。

それでも、ひょっとしたら……という思いも否定できない。「ペテロの後継者」教皇にとって、神が願えば自身の命を犠牲にする覚悟はできている、と考えられるからだ。しかし、自身の命を捧げる用意があるローマ教皇といえども、無意味なことに捧げたいとは思わないはずだ。人は価値がないことに命ばかりか、時間すら浪費したくない存在だからだ。その点、ローマ教皇も例外ではないはずだ。

それではフランシスコ教皇にとって中国を訪問することは価値ある旅だろうか。新型コロナ発生前だったら「価値がある」と考えられる。世界最大の未開の宣教地、約14億人の人口大国の中国は欧米企業だけではなく、ローマ教会にとっても魅力的な市場だからだ。

そのうえ、武漢市で新型コロナが発生し、世界で30万人余りの人々を犠牲にしている現時点で、ローマ教皇が北京を訪問し、習近平国家主席と会談し、可能ならば、新型コロナ発生地の武漢市を視察したとすれば、世界のメディアの注目を浴びることは間違いない。

それだけではないだろう。聖職者の未成年者への性的虐待事件の多発で教会への信頼を大きく失ってきたカトリック教会最高指導者にとって、新型コロナの発生地・中国を訪問し、新型コロナの感染を恐れる中国国民、地下教会の信者たちを鼓舞できれば、教皇の面目躍如であり、教会への信頼回復の絶好のチャンスだという深読みも可能だ。

中国とバチカンの両国には国交関係がない。中国共産党政権としては世界の政治に影響力があるバチカンと外交関係を樹立したいという願望がある。一方、バチカンは世界最大の人口大国の中国にイエスの福音を広めたいという宣教心がある。両者の思惑が過去、接近し、「外交関係の樹立近し」と報じられたことがあった。

中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産政権と一体化した「中国天主教愛国会」が行い、国家がそれを承認してきた。

バチカンは中国で新型コロナが発生してからも中国を批判することを控えてきた。「罪を憎み、罪人を憎まず」というキリスト教精神もあるだろうが、バチカンにとって中国共産党政権を直接批判しないことは新型コロナ発生前も同じだ。

「大紀元」はその点を「バチカンは近年、中国共産党に宥和的姿勢を取っている。2019年3月から半年以上続いてきた香港民主化デモに対し、バチカンは沈黙を貫いていた。中共政権による違法な強制臓器売買という事実を無視するなど、中国共産党を擁護する動きが際立っている」と厳しく指摘している。ちなみに、バチカンは2018年9月、中国政府と司教任命権問題について暫定合意に達し、フランシスコ教皇は中国政府が独自に任命した政府系司教7人を承認している

興味深い点は、武漢市は中国共産党政権が60年前、官制聖職者組織「中国天主教愛国会」を通じてバチカンから司教任命権を奪った都市ということだ。その結果、バチカンは中国共産政権との間の国交を断絶した。バチカンと新型コロナ発生地・武漢市は歴史的な縁があるわけだ。

教皇の訪中説を報じた大紀元は「ローマ教皇、秘密裏に訪中準備か」との見出しで、イタリアの政論雑誌「La Verita」の情報を紹介している。それによると、バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は、教皇の初訪中を検討し、最初の訪問先として「武漢市」を選んだという。都市封鎖から解除された武漢市の「再生」といった意味合いを込め、対中関係を推し進めようとしているというのだ。大紀元によれば、パロリン枢機卿はイタリアのコンテ政権の支援を受けているという(「中国に急傾斜するイタリアの冒険」2019年3月11日参考)。

フランシスコ教皇の訪中は現時点では中国共産党政権を利するだけだ。新型コロナの発生経緯が明らかになり、中国共産党政権が説明責任を果たし、世界に謝罪するまでは、ローマ教皇の訪中は“悪魔の手助け”と批判されても不思議ではないからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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