コロナ禍における上場会社の決算短信-会計監査人の頑張りに期待します

2020年05月15日 11:30

5月14日の読売新聞経済面には「総会延期 企業は慎重-株主の反発警戒か」と題する記事が掲載されています。決算作業が遅れるなかで、株主総会を延期する、あるいは継続会方式を採用する、といった上場会社が増えるものと予想していましたが、なんとか通常通り6月総会を開催するところが多いようです。私も「定時株主総会は7月以降に完全延期すべき」との意見ですが、本日までの各社決算短信をみるかぎり、圧倒的に6月総会を予定どおり1回開催する(予定の)上場会社が多いですね。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

もちろん決算短信の数字は会計監査の対象ではありませんが、事実上は監査法人のチェックを受けて公表するわけですから、計算書類や財務諸表といった法定開示書類への監査意見が(決算発表後に)変わることはまずないと言えるでしょう(昨年、決算発表後に監査法人の審査部門からクレームが出て、実は会計不正が発覚した、という上場会社もありましたが、レアケースです)。

私の手元に、日本公認会計士協会が作成した「平成30年3月15日付け 期末監査期間等に関する実態調査報告書」があります。会員に対するアンケート調査の結果として、①単体監査開始から連結監査の期限まで平均13日~15日程度を要し、ほぼ決算短信発表までに対応すること、②94%の回答者が期末監査期間の延長を希望していること、③期末日後に発生する監査期間が、年間を通じて発生する総監査時間の3割を占めること、④監査がひっ迫していると感じている場合でも、被監査会社に対して十分に伝えていない(伝えることができない)傾向があること、そして⑤深刻な内部統制の不備がある企業ほど、また経理部門の人材が乏しいと感じる会社ほど、期末の監査に必要となる時間が長くなることが判明しています。

上記報告書はちょうど2年前、監査の品質確保を目的として公表されたものです。平成25年ころから、不正リスク対応の監査基準の深化などによって監査の品質確保が強く要請されるようになったのですが、被監査会社との関係において監査現場がひっ迫している状況が(上記調査報告書によって)判明しました。ましてやコロナ禍において、会社も監査法人もテレワークやリモート会議が多用される状況で、なぜ6月総会が予定通りに可能なのか、上記の調査報告書をもとに考えると、とても複雑な気持ちになります。

また、某協会の緊急企画として、私と会社法学者の先生と手分けをして監査役、監査等委員の方々からのご質問に回答することになり、多くの監査役、監査等委員の方々の2月~4月下旬までの様子に関するレポートをいただきました。中身はご紹介できませんが、傾向としてグループ会社の監査については、親会社の「6月総会ありき」の対応しか考えられず、たった1日で監査を終了して本社に戻さねばならない、といった状況のようです。ただただ驚くばかりです。

株主の皆様の興味は「今年度の事業に対するコロナの影響」に集中するのかもしれませんが、現実にはグループ会社において未発見の虚偽表示、しかも会計監査人の責任問題にも発展しそうな「投資家の判断に影響を及ぼすほどの重要性のある虚偽表示」「量的重要性は少ないけれども、質的に重要性のある虚偽表示」がたくさん眠ったまま6月総会を終えて、そのまま有価証券報告書を提出する上場会社が増えるものと予想されます。

最近の日本公認会計士協会から出されている監査の留意事項を読みますと、コロナ禍における監査の品質確保のために必死な様子がうかがわれます。しかしながら、5月11日に開催された企業会計基準委員会議事概要を読んでも、上場会社の開示状況への焦燥感がみてとれるわけでして、これをどう評価すればよいのでしょうか。

会計監査人としては、忙しい、忙しいと言いつつ「本気になったら、こんな緊急事態でも監査の品質を落とさずに対応できること」を示しているのか、それとも、上記アンケート結果は真実であり、監査の品質をどこかで下げながらなんとか対応できたことを示しているのか、あるいはどこの上場会社も平時から有事を想定して決算の早期化、内部統制の充実を図っていたのか、もちろん各業種、各会社で事情は異なるとは思いますが、ぜひとも検証していただきたい。

クレッシーの法則(不正のトライアングル)が、これほどまでに明瞭に揃う状況は珍しいと思います(動機→簡素化してでも6月総会を恙なく終わらせる、機会→時間的余裕のない監査体制、正当化事由→なによりもまず事業を継続、業績を回復させなければ「投資家の信頼」など二の次である)。また、「社長にだけは泥をかぶらせてはいけない」ということで、汚れ役を一手に引き受け、次の社長を狙う人たちが活躍できるチャンスでもあります。こういう時こそ、リスク判断に迷いのないカリスマ経営者か、もしくはダイバーシティ(多様性)による経営判断が、有事のガバナンスとして求められるのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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