連載②コロナ騒動の世界史的な意味はなにか

2020年05月17日 16:00

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昨日の「10分で読む世界史と世界史における新型コロナ①」は、『365日でわかる世界史 世界200カ国の歴史を「読む事典」』(清談社)から、第二次世界大戦までの世界の動きを凝縮して紹介した。今日はその続きである。

長い平和と繁栄を享受してきた70年

第二次世界大戦で勝敗のめどがついてきたころ、ルーズベルトは,スターリンが良き連合軍の一員として、イギリスと協調してヨーロッパの民主主義と秩序を守ってくれる。アジアは蒋介石を応援すれば安定する。植民地はゆるやかに自立して,旧宗主国の援助も受けながら発展していくと思っていた。

アメリカだけが核兵器をもつ状態が続くという楽観的見通しもあった。そういう予想に基づいてアメリカが日本に善意で押しつけたのが憲法第9条だ。しかし、ソ連はプロレタリア独裁と世界革命を追及したし、蒋介石と国民党は人望なく毛沢東は侮れななかった。

私は社会主義の役割を否定的にばかりは思わない。社会福祉の充実、人種間の平等、植民地の独立とかは、社会主義の勝利を避けたいという圧力があったから実現した。日本が西欧的民主主義と市場経済の枠内で、先進国入りするモデルを示したことは、世界に対する比類なき貢献であった。

第二次世界大戦の終了から70年余り、世界は長い平和と繁栄を享受してきた。その間、最大の試練となった1973年と1979年の「オイル・ショック」を何とか乗り切り、ついには1989年の東西冷戦の終了という慶事もあった。

ベルリンの壁崩壊(1989年、Wikipedia)

グローバリズムの進展をどう評価する

グローバリズムの進展もいろいろ問題を引き起こしたが、総じていえば世界経済の発展と自由の増進にプラスのほうが大きかったといえる。

その後は、リーマン・ショック(2008年)という世界的な金融危機に震撼したこともあったが、それでも人々の生活を根本的に脅かすものになることはなかった。ただ、GAFAなどグローバル企業は、世界経済の成長の原動力ではあるが、貧富の差など社会問題に各国政府が友好に対処する障害にもなっている。

東西冷戦が終わったのち、EUに代表される国際的な統合の推進によって普遍的な価値の追及が実現するかと思われた。

9.11同時多発テロ事件(2001年、Wikipedia)

東西冷戦の終了後の脅威は、イスラム勢力である。9.11同時多発テロ事件(2001年)がありイスラム過激派が暴れまくり、難民は発生している。

欧米は移民・難民問題で誤ったと思う。かつて東西冷戦を終わらせたのは東欧の人々の脱出で東側諸国を自壊させるのに役立った。しかし、中東やアフリカや中南米からの難民脱出は独裁者たちにとって厄介払いになるだけだ。

また、リベラル勢力が欧米のキリスト教的な伝統的価値観を否定する一方、イスラム教のそれは尊重されるべきだというのもなんとも分かりにくい。

日本は国民に人口減少や低成長から抜け出す意欲がなく、バブル経済の発生の傷跡から脱却できず、平成の30年間の経済成長は世界最低クラスだった。 他方、中国は自由選挙を否定したまま世界のヘゲモニーの中心になりかねない。

グローバリズムに自縄自縛になったアメリカ

今回の新型コロナウイルス禍は、世界の人々の命を脅かし、人々の国境を越えた動きもほとんど停止させ、経済をズタズタにした。東京五輪2020の延期は、近代五輪が1896年にアテネで開始されてから、二度の世界大戦でしか中止や延期をされたことがないだけに、その重大性が世界大戦並みであることを象徴している。しかも、この新型コロナ禍がトランプ米大統領の任期中に起きたことは象徴的でもある。

Gage Skidmore/flickr

トランプはリベラル思想に基づく世界の潮流が、実はそれを生み出したアメリカ人の幸福につながってないのではないかという素朴な疑問から生まれた大統領だ。もちろん、そういう政治家はこれまでいたが、単なる不満分子で終わっていた。ところが、トランプはビジネス界の風雲児としての勘と行動力で、場当たり的に見えるがそれなりの結果を出す力がある。

中国を警戒するべきことは、アメリカの政治家なら誰でも気がつく。日本のいわゆるリベラル派が中国に対してひれ伏したがるのと違い、アメリカのリベラル派は中国の人権侵害に甘くない。

しかし、保守派もリベラル派も自分たちが創りだした、グローバリズムに自縄自縛になって、中国が国家社会主義的な手法で国家的意思のもとで市場を歪めつつ、本来はそういう恣意的な政府介入を許さないはずのグローバリズムの受益者であることを容認してきた。

中国が世界の経済成長の推進役として世界に利益を与えてきたのは事実だから甘くなったと言うこともある。また、この国や企業にその分け前を与えるかについて国家の思うがままである現実の前に、それに抗議するのでなく、GAFAもアメリカ政府も抵抗できなかったのである。

ヨーロッパ諸国はもっとひどくて、各国の指導者たちが訪中しては商談をまとめて満足していた。馬鹿馬鹿しい限りだったのは、たとえば、世界の航空機市場ではボーイングとエアバスの寡占状態にある。どちらかから買うしかないのだが、中国はこの両者の割合を政治的思惑で決めて、米欧どちらにもいい顔をし、自国の政治的利益の道具にしてきた。

しかも、中国の高度成長にも限界が見えてきたなかで、習近平が登場して、毛沢東の「創国」、鄧小平の「富国」につづく「強国」路線を打ち出した。

アンチ・グローバリズムとコロナ騒動

そういうときに、中国のずるい振る舞いも世界制覇の野望は許さないと、理屈も何もなしに怒鳴り込んだのがトランプだ。その結果、中国はあらゆる分野での世界市場での主導権を失った。ヨーロッパにとっても、このトランプの動きは歓迎である。

ホワイトハウスFacebook

もちろん、トランプのアンチ・グローバリズムの攻撃対象には、ヨーロッパも含まれているし、日本もヨーロッパも部分的には中国と組んでアメリカ企業に対抗している分野もある。しかし、中国を目先の利益を別にすれば苦々しく思っているのは間違いない。

そういう中国にとって微妙な時期に起きたのがコロナ騒動だ。中国はいろいろ言い訳をしているが、感染渦が中国から始まったことはたしかなのであることは否定しようがないことや、中国が責任をとらないことは、中国を中心とする、あるいは、米中が対等の地位にあるといった世界は困るというコンセンサスを成立させた。

それならGAFAなどのグローバル企業は今回の勝利者なのか敗者なのか?私は、企業収益のうえでは勝者だと思う。人々はこれまで以上に、彼らのつくる世界でいきることになるだろう。

しかし、GAFAなどがアメリカ政府と中国政府を天秤にかけるといった芸当は難しくなるのではないか。彼らを西側諸国の国民がどう制御するかは微妙だが、これまでのような勝手気ままは許されないだろう。つまり、グローバル化という流れは変わらないが、より国家権力ないし国際的協力のなかで制御されたものになるのではないか。

日本はコロナ渦を再建の機にできるか?

それでは日本はどうか。新型コロナウィルスで、どの程度、中国に厳しい措置をとるべきだったとか、中国の不手際を追及するべきかはいろいろ意見はあろうが、日中の絆は深まったと思う。

私はこの騒動を通じて、中国人は日本が中国が困っているときにも暖かい手を差し伸べてくれる国であることを再認識してくれたと思う。一方、中国が国際評価を落としたことは、日本の相対評価を上げることに結果としてなっている。

天安門事件のあと日本は、中国に相対的には寛容だったし、そのことを向こうも評価し、天皇訪中で日中友好ムードは高まった。ところが、日本経済の不振がひどすぎて欧米も中国市場の魅力に惹かれ、江沢民がそれに上手に乗じた。

そのときに、欧米は中国の危険性、異質性にあまりにも無頓着というか無知だったが。今回の騒動で幻想はなくなった。そうなれば、日本は欧米にとって中国より文明国であり、中国にとっては欧米に比べて理解のある国という本来の好ましい立ち位置に戻れるはずだ。

nagi usano/flickr

日本にとって中国外交をよい立場で展開できる鍵は、なんといっても経済再建だ。経済大国としての地位がなければ、対中国でも、対第三国でも不利な立場だ。それでは、日本は経済再建のよい機会としてこのコロナ渦を活用できるのか?

少なくとも、IT化などはかなり進むだろう。今回のようなことがなければ、日本は遅れたままだった。教育の刷新のチャンスでもある。しかし、そういういやがおうにでも進む変化はなんとかなるだろうが、ダイナミックな変革のチャンスはつかめそうもない。

だいたい、党派にかかわらず、若い政治家たちから、この際に日本を変えようという動きには出てきてない。それどころか、将来の財産になるような投資に資金をまわそうという側に立たずに、バラマキを政府に要求しているだけだ。若いリーダーが、こんないじましい精神しかなく、馬鹿騒ぎに狂奔しているような国に明るい未来などあるはずがない。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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