価格が前の水準に戻る保証はない:消毒液も高値転売禁止へ

2020年05月19日 06:00

Hamatti/写真AC:編集部

マスクに続き、消毒液なども国民生活安定緊急措置法に基づく高値転売禁止の対象になるそうだ。18日の時事通信は以下の通り報じている(「消毒液も転売禁止へ 新型コロナで品薄―政府」)。

政府は18日、新型コロナウイルスの影響で品薄が続く消毒液について、インターネットなどを通じた転売を禁止する方針を固めた。転売目的の買い占めを防ぎ、医療施設などに優先的に供給できる態勢を整えるのが狙い。22日にも関連する政令を閣議決定する。

同記事によれば「アルコールを含んだ医薬品や、消毒液の代用となるアルコール濃度が高い酒も対象とする」とのことである。マスクが国民生活安定緊急措置法で高値転売禁止されたのは約2ヶ月前だった(筆者のコラム「マスクの利益上乗せ転売禁止:古典的措置法をネット時代に適用」参照)。

そのころにはアルコール消毒液、除菌ジェルや除菌シートの類も品薄で、高値販売されていたので、マスクと同時に対象にしてもよかった気もする。今では除菌ジェルなどはスーパーやコンビニの店頭でそれ相応の価格で販売されるようになってきた。ただ、消毒液が医療機関等必要なところに必要な分量が行き渡らないという状況が今でもあるのであれば、遅きに失した訳でもない。この政府の判断は、確かに一歩前進である。

注意しなければならないのは、国民生活安定緊急措置法で高値転売が禁止されたといっても、当該商品の価格が前の水準に戻るかというとそういう保証はない、ということだ。この法律の対象となるのは、小売店(一般消費者に対して直接販売する製造事業者、卸売事業者や個人も含む)から買ってきたものを高値転売することであって、生産者から購入した小売店舗が仕入れ値よりも高く売ることが禁止されている訳ではない。それを禁止してしまったらビジネスが成り立たなくなってしまう。そこまで「価格統制を徹底する措置」ではないのだ。

だから生産の段階で、卸売の段階で高騰してしまった場合には当然、消費者価格が下がる訳ではないし、アンテナを張っていち早く生産者から一定の在庫を確保した小売店が大きな利益を出したとしても、規制の射程には入らないということになる。マスクの高値転売を禁止してもしばらくは価格が高止まりしていたのは、取締まりが甘かったというよりは、射程外の問題の影響が大きかった、ということなのだろう。だからといって今回の一連の措置の存在意義を否定するつもりはない。

物価統制のような直接的な市場介入は批判が強い。政府としてはコンセンサスが得られる範囲で、法適用の射程を考えたのだろう。私の専門である「経済法」の中心は競争制限的行為を類型化して禁止する独占禁止法であるが、石油ショックの際に制定された国民生活安定緊急措置法は、その介入の仕方として「標準価格」「特定標準価格」を設定してこれを小売業者に遵守させることができ、後者では違反者に課徴金を課すことができる規定が存在するなど、市場介入色が強く「経済統制法」ともいえる立法として知られていた(独占禁止法の課徴金制度はこの立法を参考にしたともいわれている)。

今回の高値転売禁止は経済法と経済統制法のちょうど中間的な性格を持つものだ(問題となる商品の、適切な価格を設定するのはそもそも難しいだろう)。今回の一連の対応は、市場への直接的介入は可能な限り避け、譲渡に際して特に問題となる行為を絞り込んで、これを明確化し禁止する、そういうものだった。

国民生活安定緊急措置法はなかなか考えられた法律である。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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