コロナ禍における有事株主総会に潜む「会計不正の芽」に注意せよ

当ブログで「これは他山の石として教訓にすべし」と、2度ほど取り上げた天馬社の件ですが、なんと6月の定時株主総会において注目の「お家騒動」が繰り広げられる見通しとなりましたね(東洋経済のニュースはこちらです)。このたびの同社の不祥事についても、やはりそれまでの経営権争いが色濃く影響していたのでしょうね。公表された資料や記事などをもう少し読んだうえで、またコメントしたいと思います(以下本題です)。

さて、本日(5月20日)のフジサンケイビジネスアイに「企業の株主総会 延期3%止まり」なる見出しで、令和2年5月19日付け一般社団法人信託協会の「『新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応』に係る要望書」の内容が紹介されていました。見出しのとおり、3月決算会社2400社のうち、6月定時株主総会を完全延期(基準日変更)する予定の会社は75社にすぎず、全体の3%程度であり、95%の企業は(継続会方式も含めて)6月に予定どおり定時株主総会を開催する、とのこと。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

総会が簡素化され、また集中化されればされるほど、総会関係者の負荷が高まることも懸念されますが、私がもっとも懸念しているのが「監査の空洞化」です。大手監査法人の方々にお聞きしたところでは、期中監査の末期2カ月(3月、4月)と期末監査のほぼ全期(3月、4月、5月)については在宅勤務で監査作業が行われていたようです。また、内部統制監査の中心となる経営者とのコミュニケーション、経理・内部監査担当者との相談、監査法人内の社内審査等も原則として在宅勤務です。

その結果として、5月中旬に会社法監査を終了させた会計監査において、①国内外の子会社監査未了、②実地棚卸の立会率の低下、③取引先の残高確認の未了、④証憑確認(突合作業)のサンプル不足、そして⑤内部統制システムの運用評価未了といった問題が現実に発生しているようです。このような問題に直面しつつも、会計監査人は「特別な検討を要するリスク」を中心に、限られた時間内での監査手法に工夫をこらしながらリスクアプローチによって適正意見のための心証を形成しているのが現実ではないでしょうか。

今月号のFACTAでは、会計評論家の細野祐二氏が「無形固定資産(のれん)の減損処理がコロナ決算の最大の問題点」と述べておられますが、私も基本的に同じように考えております。要するに、コロナ禍における各上場会社の将来見積り自体は不明確なものは仕方がないと思うのです(おそらく、より正確な見積りについては、今後開示されていくものと期待します)。しかし、この「仕方がない」状況を利用(悪用?)して、過去の会計処理上の問題点を表面化させず、これが次第に大きな額となって、もはや隠蔽しかありえない状況になってしまうリスクを懸念しております。

「監査の空洞化が会計不正を招く」といっても、なにも大げさなことを申し上げているつもりはありません。というのも、私なりに、上場会社において「会計不正」が生じる、もしくは発覚する現実を見据えたうえで懸念を抱いているからです。

ちなみに、会計監査人が不正を発見する、というのは(かつてのNHKドラマ「監査法人」の主人公のように)、かっこよく被監査会社の倉庫から粉飾の証拠となる書類を見つけ出して経営者を糾弾する、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、何度か内部告発の代理人や第三者委員会委員として経験したところから申し上げるならば、そんな「不正発見」の場面に遭遇したことなどありません。水戸黄門や遠山の金さんのような会計監査人はたぶん存在しないと思います。なぜなら、会計不正問題というのは、シロとクロの間に、とても深いグレーゾーンが存在し、このグレーゾーンはシロにもクロにもなりうる領域だからです。どんなにAIが不正発見に有用な時代になったとしても、これは変わりません。

「とりあえず今年は重要性がないということにしておきますが、来年は修正が必要でしょうね」「これくらいの目標を達成しないと減損の対象になるのではないでしょうか、来年までの宿題にしておきましょう」「まあ、会社のほうで修正を認めていただけましたら、今年度の損失で済ませて、過年度決算の訂正までは必要ない、ということにしておきましょう」

といった具合に、会計監査人は「不正の芽」をひとつひとつ、会社側とのコミュニケーションの中でつぶしていくことが「会計監査人が不正を発見する」平均的な姿だと思うのです。これはとても地味な作業です。

そして、この6月総会で最大の問題は、会計監査人と経営者、監査役、もしくは経理責任者との間で、この「不正の芽をつぶしていくためのコミュニケーションの時間」がとれなかった、不十分であった、という点ではないかと。早い段階で「不正の芽」をつぶしておけば「粉飾」などと指摘されることもないわけですが、会計監査人が会社と協働して「つぶす」ことができないほどの金額的重要性が認識されるに至った場合には、もはや会計監査人も(原則に立ち返って)批判的立場を前面に出さざるを得ない、ということになります。

もちろん、日本公認会計士協会から「留意事項(2)」が公表されていますので、経営者の見積り、とりわけ減損会計や税効果会計(繰延税金資産)に関する処理については厳格な姿勢で監査はなされていると思います(したがって、とくに問題はない企業も多いはずです)。また、経営者確認書のドラフトには「新型コロナウイルス感染症の業績への影響にも慎重に配慮しました」といった項目を追加しているはずですから、会計監査人のリーガルリスクには一定の保険がかけられているものと思います。

ただ、そのようなリーガルリスク以前の問題として、やはり会計監査人も会社になかなか物言えない立場になってしまい、最終的には株主の損失が発生してしまうのではないか。そのような会社がいくつか出てきてしまうと、会計監査の信頼、ひいては証券市場の健全性維持にとってマイナスではないか、との懸念が生じます。やはり私は6月の定時株主総会は完全延期すべき、もしどうしても6月総会を開催するのであれば、計算書類、事業報告の品質確認が大前提、と考える次第です。

いつも長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。