絶句する「黒川自爆辞任」と安倍政権の断末魔

中村 仁

人心一新し政府機能を取り戻せ

東京高検の黒川検事長が緊急事態宣言の最中に、政府の外出自粛要請を破って記者宅に出かけ、こともあろうに刑法違反の疑いのある賭けマージャンに長時間、興じていた。本人も法務省の聴取に応じ、辞任するという。絶句する法の番人の振る舞いに、政府の機能は一段とマヒし、断末魔の様相です。

東京高等検察庁ホームページより

17日にブログで「黒川氏に検事総長の就任辞退を勧める」を書きました。まさかこのような展開になり、最悪の形で辞任するとは考えは及びませんでした。官邸は法解釈を急遽、変更してまでして、黒川氏の定年延長を特例として閣議決定し、8月、検事総長に昇格するつもりだったとされます。

辞任は当然としても、刑法違反の賭けマージャンなら、公務員法違反(法令順守規定)で懲戒免職として、退職金の支払いを拒否できるよう厳しい措置をとるべきです。法相、内閣の任命責任は重い。口先だけの「任命責任は私にある」では、済まされないでしょう。

検察庁法を改正し、国家公務員と同様に、65歳までの定年延長を認めようとした法案は当然、廃案、撤回になるでしょう。コロナ危機で失業、休業・倒産が倒産が急増している最中に、検察庁法の改正と一体で国家公務員の定年延長法案(65歳まで)も通そうとした無慈悲な政治を反省し、これも廃案・撤回すべきでしょう。

黒川氏は賭けマージャンをしばしばやっていたと言われます。官邸の意向に従うタイプという理由で、このような人物を特別扱いした官邸の判断能力・調査能力のマヒにも絶句します。

産経新聞は「取材に関することには従来お答えしておりません」の素っ気ないコメントをだし、追加で「取材源秘匿の原則を守りつつ、社内規定にのっとり適切に対処してまいります」との見解です。密接な人間関係を築くことは必要としても、コロナ危機の最中の賭けマージャンが「取材に関すること」というのなら、聞いてあきれる。取材倫理の基本が理解できていない。

黒川氏はギャンブル依存症ではないかと、疑いたくなる。マージャン後は、新聞社の用意したハイヤーで帰宅したとの報道です。収賄、贈賄ではないか。法務省の事情聴取はもちろん、警察か検察も捜査に乗り出し、疑いが固まれば立件し、黒ならば送検すべきです。法の番人の責任者が部下の取り調べを受ける。法の世界も機能がマヒしているといえます。

それにしても、絶妙のタイミングで週刊誌がスクープしました。誰がどのような目的で情報を持ち込んだのか興味深い。黒川検事総長構想を潰し、検察庁法の定年延長案を潰し、合わせて国家公務員法の改正案も廃案に追い込む。安倍政権への痛撃にもなる。

官邸サイトより

緊急事態宣言はコロナ危機ばかりではない。安倍政権も緊急事態を迎えたと考えたい。森友学園、加計学園、南スーダンに派遣した自衛隊の日報隠蔽、「桜見の会」の名簿破棄など行政のいい加減さが噴出していました。検察は動かず、下働き職員が自殺を含め、みじめな思いしてきたことでしょう。

コロナ危機下では、生活苦とは無縁の所得層を含め、全世帯に一律10万の給付という乱暴、無用な措置を決めました。思い付きで突然決めたので、行政の末端が処理で振り回される。おまけにこういう時こそ役立つはずのマイナンバー(国民番号)制度が浸透しておらず、無用の長物になっています。

コロナ・マスクはいまだに配布が終わっていません。全て官邸の責任ではないにしても、長期政権下で、指示の乱発、忖度の横行、アドバルーン政治という組織病が進行し、政府はやることなすこと、機能不全に陥っています。

コロナ感染はピークを越した思われます。緊急事態宣言の解除を機に、人心を一新して、「新しい政治」に転換すべきでしょう。「新しい生活様式」とは、国民ばかり求めてはならない。安倍政権には「新しい政治」、つまり退陣が求められる。

「危機の最中に馬を乗り換えるな」か。安倍政権は疲労困憊の極にきています。馬を乗り換えることは本人のため、国民のためだと思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。