戦闘機開発で大事なことは何を諦めるか決めること、身の丈を知ること

F-2戦闘機(空自サイト)

F2後継開発、「日本主導」をどうしても譲れない理由(JB Press)

経験が乏しい我が国(政府+業界)が“我が国主導”で国際共同開発を進めることは、無理なのではないか? それが、複数の識者が、“我が国主導”に異論を唱える理由です。

正直言って、私も無理じゃないかと思います。ですが、防衛省は“我が国主導”の方針を強く打ち出していますし、私もその方針を支持します。

なぜかと言えば、少なくとも今の段階でこう言っておかないと、アメリカと日本の財務省に、それぞれにとって都合の良いものを買わされるだけとなるからです。そしてそれは、日本の航空機開発能力が骨抜きになるのみならず、日本の防衛力の低下を招くからです。

AAM-4は、99式空対空誘導弾という名称のとおり、1999年に採用が決まりました。ところが、アメリカはここに至って姿勢を変え、2014年にAMRAAMの日本への輸出を認可します。売らないと言っておきながら、いざ日本が同等の性能の装備を開発すると、量産効果で費用対効果に上回る装備を売りつけるという姿勢に、当時の関係者は大変憤慨しました。

“我が国主導”方針は、今後の交渉を行うために足下を見られないために必要な宣言なのです。これは、相手がアメリカであれ、イギリスであれ、共通することですが、最も交渉相手として念頭にあるのは、F-2をF-16の改造設計に変更させ、AAM-4完成後にAMRAAMを売ってきたアメリカです。

韓国の「FA-50」のような軽戦闘機の開発ならば“我が国主導”開発が容易になる、という考え方です。
一言で言えば、これは不適当です。

F-2後継は、どのような機体になるにせよ、国産か輸入かにかかわらず、大型で強力な機体とし、少数による質で勝負するしかないのです。

筆者は、防衛省が実際に目指しているのは、このF-15E後継機をアメリカと共同開発することではないかと考えています。

ぼくは数多氏の主張は矛盾があると思います。

基本的に米国は彼が挙げているように平気で手のひら返しをする国です。それは、我が国はどんなにいじめても尻尾を振ってくる駄犬だからです対等な同盟国だと思っていません。だからブラックボックスだらけで、まともに共同開発などできません。良いように金を引き出されるだけです。

その相手と大カネのかかる「大型で強力な機体」を開発するというのは実現しても例えば1機400億円とか500億円になって調達機数は減らされるでしょう。現状最大でも100機程度と想定されていますから、OH-1と同じ用にこんなはずじゃなかったと言い訳して途中で大幅に機数を減らされるでしょう。

いつも申し上げますが日本には全てではないにしろ、要素技術はありますが、それを先端の戦闘機に仕上げるインテグレーションの能力と実戦のノウハウデータがありません。また当事者意識&能力もありません。
F-2開発時にしてCCVなどの飛行実験はごくわずかです。できるのは精々F-22の劣化コピーです。

月刊軍事研究2018年1月号のF-2の開発を担当した松宮廉元空将の手記には以下のようにあります。

「我が国にはフィールドデータが存在しなかったこと、つまり空戦で何機を相手にして、相手機がどの辺で攻撃してくるとかの実戦に基づくシナリオが無かった」

「このシナリオがないとソフトウェアは組めずに、漠然とした『多目標処理』という要求にならざるを得ない。そのため、C-1試験機(FTB:Flying Test Bed)に搭載して確認したこともあって、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーの技術試験は合格とされてしまった。しかし、実際は探知距離が短く、追尾中に急激な機動をすると、ロック・オンが外れるといった、全く『実用上は使い物にならない』レベルであったようである」

これは未だに変わっていません。海外の同業他社のリサーチすらしていません。実験室レベルの実証機と実戦で使える戦闘機は全く異なります。防衛ムラでお互いを褒めあって喜んでいるだけです。

財務省じゃなくてもこんな無駄使いになるならば反対するでしょう。

また搭載武器ももう自主開発は無理でしょう。戦闘機の半分が外国製兵装のF-35になれば、単純に搭載国産兵器の調達数は半分です。いまでさえまとも研究も試験もやっていないのに他国の何倍も高いミサイルがもっと高くなります。国産開発は無理です。

F35導入を選んだことで事実上我が国は戦闘機の生産基盤を捨てたわけです。少なくともそう考えたベンダーはすくなくない。だから住友電工もダイセルも撤退した。F-2生産の最後のゴタゴタで防衛省信じるに足りず、と思ったベンダーは多いはずです。

たかだか100機以下の戦闘機を開発するのに数兆円の開発費をかけられるでしょうか。それをケチると外見だけは他国のものに似たパチモン戦闘機になるだけです。少なくとも今の防衛予算で機体、システム、エンジン、兵装を全部自前で開発するのは能力的にも技術的に無理です。であればイスラエルのように機体とエンジンは諦めるという手もあります。

要は何がしたいかです。

1) 第一級の能力が高い戦闘機が欲しい
2) 我国が主体となって国内の戦闘機開発&生産基盤を維持したい。

両方を得ようとすれば虻蜂取らずになるでしょう。
この2つは二律背反です。1)を選ぶならば輸入か、共同開発しかありません。
2)であれば、安価な軽戦闘機を目指すしか無いでしょう。

個人的には欧州メーカーの開発に参加するのが一番いいと思います。米国ほどブラックボックスが多くないので技術移転も期待できるし、アップグレードに参加できる。独自の近代化も可能です。そして参加国全体では相応の機数を生産するので調達コストも低減できる。

また米国に対してNOといえるカードを得られることです。無理難題をふっかけるならば米国以外と組みますよという意思表示になります。そうすれば今後米国と交渉するときに有利にすすめることができるでしょう。

自分が飼い主で、相手はいくら殴っても尻尾を振ってくる駄犬だと思っている相手に尽くしても報われることはないと思います。

Japan In Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defence に以下の記事を寄稿しました。
Hitachi wins Japanese bulldozer contract

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。