訪日外国人客と共に踊った店主たち

安倍首相もかつての威厳ある体制も最近は野党のみならず与党内からすら皮肉が目立ち、一枚岩の自民党という第二次安倍内閣ができたときの「ほう、やるねぇ」という感じではなくなっています。コロナは更に背中を押したようなものでご本人にとっても全てのシナリオが崩れ去った「青天の霹靂」的な騒ぎであるかと思います。

さて、2012年末に発足した同政権下では様々なストーリーが生まれましたが、個人的に一番パワフルであったのは訪日外国人の増大化政策ではなかったかと思います。2012年度の訪日外国人の数は840万人。2019年は3190万人と3.8倍に膨れ上がったこの観光客に沸いたのは東京よりも大阪、京都、および地方都市でありました。こんなところにも外国人がいる、あるいは外国人の方が日本を良く知っているなんていうこともしばしば起きています。

acworks/写真AC

Japan Rail Passという外国人と日本人の長期海外滞在者だけ購入できるほとんど乗り放題のチケット(7日間で33610円から)を使い倒し、新幹線「ひかり」は外国人御用達列車と化し、挙句の果てに北海道ニセコは外国人の為のスキーリゾートとなりました。訪日外国人にスポットを当てたテレビ番組も大流行で安倍政権として一番安定的に成功した政策ではなかったかと思っています。

特にこの経済刺激は地方の温泉街やスキー場などに人が押し寄せることで地方経済の活性化に一番貢献してくれました。大阪は昔から外国人に人気の街でありますが、理由を聞くと「楽しい」「驚き」といった表現が並びます。私から見ると「大人のディズニーランド」なのでしょうか?一つひとつは小さいけれど面白いものがおもちゃ箱に「ぎょうさん」入っていてお得感満載なんです。

東京は格好から入るし、江戸っ子は時として怖くて偏屈なおっさん、おばさんに見えるし、マニュアル化されたロボットのような商店の店員は駄話しようものならば「何!うるさい」という目線で見られます。そういう意味では関西と地方経済にとって訪日外国人は実にありがたいお客様であったはずです。またそれなら俺も、私もとビジネスを立ち上げたり外国人にアピールできるよう工夫や努力をされた店主や宿泊施設は数知れず、でありました。

これぞ「皆で踊った地方経済」と言わずして何というのでしょうか?

今日の私のポイントは外国人にあれだけ抵抗を示していた日本人のスタンスがこの7年で変わってきている点です。観光客だけではなく、アジアから多くの若者が就学、研修で長期滞在をし、コンビニやファーストフード店を始め多くの分野の労働市場を支えてきました。つまり、共存でありました。

多くの中小の経営者さんや個人事業主さんは外国人に助けられたと思っていらっしゃるはずです。そして接点が増えることで奇妙なわだかまりもなくなったでしょう。基本的には彼らは好きで日本に学びに来ているのです。悪さをする輩ももちろんいます。外国人犯罪はマスコミがこぞって取り上げるので目立つのですが、平成30年の統計では全検挙者20万6千人のうち、外国人の犯罪者は6千人と全体の2.9%であります。

外国人観光客がすっかりいなくなったこの国で多くの店主たちは「あの頃はよかったのになぁ。またあの日が来るだろうか?」と思っていることでしょう。それは日本も少しずつですが、外国人と共存するという気持ちを少しずつ育んできているからかもしれません。

ところで、一部の報道には日本は移民300万人で世界でも有数の移民大国と報じているものもあります。私から見ればこれは広義のなかの広義の意味合いであり、数字が独り歩きしていると思います。他国の一般的な基準は永久に住める権利を所有することがimmigrantの定義であり、日本の制度に当てはめると実は「永住者資格」であるべきでその数は77万人程度であります。

永住者がなかなか増えないのは日本が永住する国としての魅力が乏しいからとされています。なのでいくら門戸を広げても来ないので気にすることはないでしょう。むしろ、本気で永住者が増えるようになるならば日本がそれだけ国際化したという意味で評価されたと取るべきで喜ばしい事であります。

今は一時労働者的なスタンスで受け入れをしていますが、超長期のポリシーは少しずつ門戸を広げていく方向にあると予想しています。なぜか、といえば生産年齢人口が圧倒的に足りなくなるためです。一方、現在の外国人一時労働者はお金を落とさずにしっかり貯めて本国に帰るため、日本の経済に十分循環しない問題があります。そのために観光客がしっかりお金を落としてくれることでなんとなく両方のバランスがとれていたということになります。

今、多くの商店主は誰も歩かない街並みを見ながら「また踊りたい」と思っていることでしょう。観光客に対するコロナ規制はなかなか取れないし、メンタル的なバリアも多いと思いますが、来年ぐらいからはポツポツ回復してくるのではないかと思います。それまで頑張ってしのいでもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月24日の記事より転載させていただきました。