自衛隊の貢献を正しく知ろう(渋谷氏が賛同する全国民PCR検査に反対②)

篠田 英朗

相変わらずテレビでは、目先の視聴率欲しさに、渋谷健司氏と並んで、54兆円全国民PCR検査を推進した小林慶一郎氏を重宝しているようだ。

渋谷氏(FCCJ動画)小林氏(東京財団HP)

本来、160万人以上の感染者数をベースに検査するアメリカと、その1万6千人の感染者数をベースに検査をする日本とで、検査総数に差があったとしても、何も不思議ではない。

また、消費税30%以上が持論の経済学者が唱える54兆円全国民検査が危険なのは、陽性判定漏れが防げず、検査に時間差ができるので意味がないのにもかかわらず、費用と感染リスクが膨大であるためでもある。

クラスター対策だけでなく、空港検疫を徹底するという戦略的な検査体制の確立から注意をそらしてしまう点でも、いっそう阻害的だ。

なぜマスコミは、内容を変えながらひたすら当たらない予言を唱え続ける渋谷健司氏や、渋谷氏と並んで54兆円全国民PCR検査を推進する消費税30%以上経済学者などを重用し続けていて、たとえば自衛隊の感染拡大抑制に対する貢献などについては、全然伝えようとはしないのか?

3月下旬が増加率のピークだった日本の新規感染者数の拡大の背景に、欧米諸国からのウイルスの流入があったことは、すでに研究で確かめられている。したがって4月以降の増加率の減少に、入出国の規制が大きな効果があったと考えるのが当然である。

ただし、3月下旬以降も、帰国者らの日本への入国は、限定的な形で継続していた。全員のPCR検査を実施したため、一時期は検査結果待ちをする人々が空港の段ボール箱ベッドに宿泊していることが、大きな話題となった。

この窮状を救ったのは、自衛隊である。3月28日から成田空港・羽田空港において、自主派遣された自衛隊員たちが、水際対策強化にあたった。自衛隊員たちは、検疫支援(PCR検査のための検体採取)や、検査結果を待つ人々の宿泊施設への移動支援などにあたった。一時期は280名体制で、ようやく5月半ばから業者等に引継ぎを行って、段階的な撤収に入るまで、危機的だった日本の空港検疫を支えた。

グランドヒル市ヶ谷では、自衛隊の指導下、帰国者受け入れを完遂した(4/20、防衛省・自衛隊ツイッター)

防衛省本省のおひざ元のホテルグランドヒル市ヶ谷では、検査結果待ちの帰国者・入国者の受け入れ態勢が、万全の構えで実施された。自衛隊から徹底指導を受けたホテル職員や委託業者職員が対応にあたったが、不備なく進められ、「自衛隊から民間への業務移管の初の成功例」だと言われる。といってもこれをきちんと伝えているのが、防衛省・自衛隊関連のニュースを専門とする『朝雲新聞』だけであるようなのは、寂しすぎる。

自衛隊は、ダイアモンド・プリセンス号事件以来、新型コロナ対策の最前線で活動しながら、いまだ感染者を出していない鉄壁の体制を敷いている。この自衛隊の功績を、正当に評価しないのは、寂しい。

ただし、それだけではない。極めて限定された数の入国者に対する検疫も、自衛隊の大々的な助けがなければ実施できなかった事実を、われわれがよく認識していないことが、もう一つの寂しさの原因だ。

社会経済活動を動かしていくためには、永遠に鎖国しているわけにはいかない。しかし日本の感染者数1万6千人にたいして、世界の感染者数は540万人だ。しかも国外ではまだすごい勢いで増え続けている地域が多々ある。日本にとって開国のリスクが大きいことは否定できない。

場合によっては、出国時・入国時に複数の検査を義務付けるくらいの徹底した検査体制は、開国の当然の前提になるだろう。自衛隊なくしても検査を実施し、検査待ちの人々・陽性判定対象者を管理していくためには、相当の準備がいる。関係者はそれをやっているのだろうか?航空業界の関係者は、「検査税」徴収による航空運賃の実質上昇があっても、万全の体制で開国をすることが長期的な利益になることがわかっているのではないだろうか?

経験豊富になった自衛隊関係者の知見をよく吸収し、それをふまえた対策をとっていくことが重要だ。今後の空港検疫体制の充実を、実質指導してほしい。

いずれにしても、緊急事態宣言下における感染拡大抑制の隠れた英雄である自衛隊の多大な貢献を、無駄にすることがないように、よく記憶にとどめておきたい。