不動産はコロナでどう変わっていくのだろうか?

岡本 裕明

コロナ後の経済や社会を考える中で不動産の位置づけも今後、一つの大きなテーマになってくるかと思います。一口に不動産といっても非常に幅広いのですが、その中でも今日は我々が普段の生活と密接に関係する場面の変化を考えてみたいと思います。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

私はコロナがもたらしたというより、コロナによって人々が対処的に利用しはじめたオンライン業務や学業、生活への浸透が人々の行動規範を多少変える可能性を見ています。

セミナーや講演会、集会といったイベントに数多く参加されてきた方も多いと思います。それこそ、近所や管理組合の集会、PTAや趣味の集まりから大規模な催し物までいろいろありました。これが一気に止まり、代わりにオンラインで代行しようとする風潮になっています。

また、オンラインイベントでも運用者のプレゼン方法が急速に向上してきており、運営者や講演者の慣れも出てきて違和感なく参加できるようになりつつあります。ある意味、YouTubeをさらに進化させ、ライブで参加する新しい価値観、「時間の共有」が進んできたともいえます。これは時代の変化としてはスルー出来ない重要なポイントです。

今はまだパソコンやスマホ内蔵のカメラ、マイクとスピーカーを通したやり取りが主体だと思いますが、画像や音の解像度を高めて高画質、高音質なものが開発されたり、ウェビナーなどの講演でも見せ方や視聴者とのやり取りに大きな改善余地が出てくるでしょう。更に課金型ウェビナーが浸透すればこれはビジネススタンダードを変えるほどのインパクトとなるでしょう。

私が不動産という業種からみて変わるであろう第一のポイントは貸し会議室やイベント会場の稼働率の低下があり得ると思います。併せて人の移動の必然性が絞り込まれるようになればビジネス用途のホテルの需要やビジネス接待の飲食店利用は落ちるとみています。

会社のオフィスはどうでしょうか?東京など都市になぜ事務所が集積するのかといえば取引先や案件の関連者が集まりやすく、情報も集めやすいということでした。そして、ビジネスチャンスを求めてシェアオフィスを借り、見せかけのビジネス形態を生み出したブームもありました。ウイワークの顧客にみられる一種の「ビジネス パラサイト(おこぼれのビジネスに群がるこしかけ事業者=私の造語です)」も流行ったわけです。私が北米で見る限り、このビジネス形態は一旦リセットしつつあると考えています。

企業のオフィス需要はコロナ前までは堅調とされ、高層事務所ビルの開発案件数は高水準を保っています。しかし、会社に通勤する回数が減る、ビジネスの基盤が自宅やサテライトオフィスにもあるとなれば事務所の需要は見直さねばならないでしょう。

ならば人々がオンラインを活用しやすくするために自宅で個人スペースを確保することが今後の大きな課題となるかもしれません。戸建て住宅の人は家を改造し、家族がそれぞれ自分だけのスペースを持ちたいと思うかもしれません。かつてお父さんの夢の一つに書斎を持つことがありました。今は書籍を抱え込む人は少ないですが、たとえ3畳のスペースでも机とリクライニングできる椅子、そして家族のだれにも邪魔されない空間と時間が求められると思います。

マンションでもスペースがあるなら物理的には可能です。そのような専用のパーティションが開発され、自在に間仕切りを作り簡易ドアが設置できるような商品が売り出されれば面白いビジネスに展開するでしょう。つまり自宅に3畳ほどのサテライトオフィスがあり、自分の憩いの場にも変身するのです。

これは今までシェアすることが21世紀のビジネス形態ぐらいの勢いだった価値観の見直しとなる可能性もあります。シェアハウスも共有スペースよりも個人スペースに価値の重きを置くようになるかもしれません。話題の「テラスハウス」はあくまでもテレビプログラムであり、実態はもっと個人主義が進んでいます。

これらはコロナの感染症が怖いのではなく、人が人との直接のコンタクト避け、画面を通じてのやり取りが当たり前となる価値観を強化してしまっただけなのです。ずいぶん前、男女のカップルがコーヒーショップで向かい同士に座るのに、テキストメッセージ越しにやり取りしているのが話題になったことがあります。

最近、ビジネス同士で電話はすっかり掛けなくなりました。メールが主流となり、電話を通じたコミュニケーションが「退化」したのですが、同様に今後、リアルミーティングも退化する可能性はあります。それの方が効率的だからです。つまり、コロナのはるか前からそのようなトレンドはあったわけでコロナがその背中をちょっと押したということではないでしょうか?

私は「コロナ後、世界は激変する」という数多くの記事やコラムを読みましたが、過去を否定し、ニューノーマルができるという主張は今しか見ていない不十分な見識だと思います。現在まで築き上げてきた路線に対する柔軟な対応と更なる強化という意味での新時代(New Era)がやってくると考えるべきではないでしょうか?

不動産マーケットの変化についても人々の価値観と社会の仕組みと現実問題が全て一緒に動くことが前提であり、多くの人が語る「急変」や過去の否定は世の中の対応がついていかず、経済活動そのものが破壊されてしまいます。例えば世の中が急変したから25年ローンの住宅を捨てて違うライフを選べるかと言えば難しいでしょう。可能性と現実は違うのです。今まで登ってきた階段をこれからまた数段駆け上がるようになるといった方が適正な解だと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月27日の記事より転載させていただきました。