小池都知事と仁坂和歌山県知事のコロナ通信簿

2020年06月01日 11:30

週刊文春と御厨貴氏のコロナ知事通信簿の大疑問』という記事を5月15日に載せたが、その後、これをもとに増強してまとめなおして、本日発売の月刊『正論』7月号で『パフォーマンスだけの首長はいらない』という記事にした。

また、6月17日には、『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』(ワニブックス)という本が発売されるが、そのなかでも扱っている。これも予約が始まったのでぜひ読んでいただければ幸いだ。

これらのなかで、いろいろな知事のことを扱っているが、ここでは、そのうち賛否両論ある小池百合子東京都知事とえらく評判がいい仁坂吉伸和歌山県知事について記事をもとに少し敷衍して紹介したい。

キャスター出身の高い発表能力

官邸サイトより

御厨氏がどうして小池百合子都知事を評価しているのかよく分からないのだが、私も政府が大胆なコロナ対策を立てるにあたって、小池氏というジャンヌ・ダルクがいたことは良かったと思う。

緊急事態の発動は、日本医師会が3月30日に発動を求めたし、私もやるなら早く決断すべきと主張したが、強制されるのは嫌だとか、必要ないとか、補償しろとかいう抵抗もあったから、小池知事が政府の背中を押したのは良かった。そもそも必要なかったのかもしれないが、こういうのは、国際的な常識からあまり離れると信用をなくすという問題もある。

小池氏はさすが、テレビキャスター出身だけあって、言語明瞭、要点にしぼっての発表能力は、ややまわりくどい印象があった安倍首相よりも説得力があった。

だが、医療現場の統率という場面では、東京都の対応は混乱を極めて、各種の数字も統一性のないものが多く、日本全体の状況をつかむうえで支障になった。

このあたり、前知事の舛添要一だったら、現場に乗り込んで専門的な説明も聞いて理解し、適切な専門家の助力も得ながらいい仕事ができただろう。猪瀬氏でもかなりできたはずだ。そう言う能力は小池氏にはない。

度が過ぎたバラマキで後顧に憂い

広汎な厳しい休業要請をする一方、財政調整基金というへそくり8000億円以上を使って、ある種の休業補償を気前よく出し、コロナと戦うイメージを出し、業者からも喜ばれて選挙対策になった。

しかし、バラマキの度が過ぎて他の道府県は追随できず全国的混乱を招いた。さらに、首都直下地震などのときの備えを使ってしまったともいえる。

普通なら、国から「そんな東京は余裕があるんなら東京五輪の追加費用とか仰っても一銭も出しませんからね」「地震のときも知りませんよ」といわれることは分かっているから極端なことはしない。

もちろん、財政再建団体になるわけでないから、独自政策はいっさいダメではないが、国から助けてもらうためには、独自政策は全体として他府県の平均より大きくないというなかでの独自色でなければおかしい。

他府県より手厚い人気取り政策を大規模にする自治体に国の財政支援するのは論理的でない。

しかし、7月の都知事選挙を乗り越えることしか頭にない小池氏はその先のことは無視して突っ走った。

そして、そのために、支援策は著しく歪んでしまった。大阪の吉村洋文知事のところあたりなら、まだ、少し値切ってよく似たことができるが、そんなもの形ばかりしか付き合えない県がほとんどだ。

援助策は閉店したかどうかでなく、実際に減収したかどうかで計るべきで、持続化給付金はそういう考え方で成り立っているからいいのだ。そこに、家賃補助を組み合わせた第二次補正の体系は極めて合理的で小池知事が歪めた体系をかなり補正している。

仁坂知事の考え方は歪めて報道されている

仁坂吉伸・和歌山県知事(県サイトより)

一方、おしなべて評判がいいのが和歌山の仁坂吉伸知事である。実は私は仁坂氏のことはとてもよく知っている。というのは、私が役所に入ったときの指導教官だったのである。経済産業官僚だが、ミラノ・ジェトロ次長や駐ブルネイ大使もつとめている。和歌山県立桐蔭高校出身で同級生に竹中平蔵氏がいるが、同級生によれば仁坂氏の方が秀才だったそうだ。

仁坂知事は、済生会有田病院の集団感染のあと「早期発見するために大事なことは国の基準にこだわらないことだ」として幅広いPCR検査をして封じ込めに成功したことで、国に反抗して成功したというイメージを持たれているからだろう。

マスコミが評価するのは、政策の内容でなく政府に反抗したかどうかだ。

しかし、あのとき、私は「仁坂知事だからあのやり方ができるので、他の知事が真似たら危ない」といった。

なにしろ、素晴らしく優秀な頭脳で細かいし、常識にもとらわれない。だから、状況を完全に把握して仕事をするので、かなり綱渡りでも大丈夫なのである。

PCRを片端からといっても範囲は正しく設定しているし、大阪の医療機関の協力取り付けなどして医療崩壊しないような手当ができていた。

一方、仁坂知事の発言のうちバラマキを否定したような部分は、マスコミは気に入らないからほとんど紹介しない。

「(休業要請した場合は補償をするかと問われて)絶対にしない。外出自粛で客が来ていない店には補償せず、休業要請した店だけ補償すれば不公平になる。また災害時に避難してもらっても補償しないのと同じだ」(日本経済新聞)

吉村大阪府知事が基準を設定した出口戦略についても、「(基準だけで判断するのは)ちょっと危ないような気がする。大丈夫かと心配もしている」と述べるなど(発言は紀伊民報より)、私が仕えたころの20歳代前半から変わらぬ仁坂氏らしいまことに冷静な意見である。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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