放送法に“通じた”高市総務相は、朝日放送の“甘太郎ぶり”の注視を

新田 哲史

大阪市の朝日放送(Wikipedia)

大阪の朝日放送グループホールディングス(HD)の現役の執行役員が、大戸屋の経営陣刷新をめざすコロワイドの社外取締役候補になっている問題は、きのう書いたとおりだ。

朝日新聞GPのモラル危機…大阪の朝日放送役員が企業紛争で“片棒”

繰り返しになるが、放送局は国民の有限な資産である電波利用を、国から許認可を受け、放送法の遵守が求められる公共性かつ特殊性のある事業者だ。だから報道する際には、法制度にも、また民放連などの業界内の自主的な取り組みにおいてもフェアであることが求められているわけで、紛争中の企業の一方の取締役候補に指名されるのは、ある種の片棒担ぎと解釈され、要らぬ疑念を招きかねないと私は見ている。

しかし、私の取材に対して、朝日放送側は「問題がない」と一点張りだった。

ちなみに、きのうの記事は専門色が少し濃かっただけに、メディア業界の関係者くらいにしか読まれないかと思っていたが、一時は24時間ランキングで首位に出ることもあり、全日で2位をマークしたのは意外だった。

コロナ禍を煽るテレビ報道の論調が批判され、放送局のフェアネスへの疑問が生じていることも関心を高めた背景だったかもしれない。ぽつぽつと反響もあったが、その中には、朝日新聞グループのガバナンス事情に詳しい人から、私と同じく批判的かつ呆れてみている意見も直接寄せられた。

とはいえ、朝日放送から筆者の取材に寄せられた回答は、一点の曇りもなく、問題なしの構えだった。それであれば、ここは放送事業の元締めである総務省の裁定を仰ぎたい気持ちになってくる。

NHKニュースより

折しも現職大臣の高市早苗氏は、歴代の中でも放送法に一家言お持ちのようだ。ご記憶の方もいるだろうが、前回大臣を務めていた2016年には衆議院の予算委員会で、政治的公平性を求めた放送法違反を繰り返した局に対する電波停止の可能性に言及した。

高市総務相「放送法違反続けば電波停止の可能性も」(産経新聞 2016年2月8日)

このときは田原総一朗氏ら7人の著名キャスター・コメンテイターが高市氏に対して「私たちは怒っている」と題した抗議声明を発表するなど騒ぎになった。

高市氏の発言は野党議員が仮定の質問をしたのに対して、ロジカルに答弁してしまったが故に物議を醸してしまったので、言い方は慎重かつ穏当にしていただきたいものではあるが、少なくとも政治的公平性をうたい、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を求めている放送法4条に通じていることには違いない。

だからこそ、朝日放送グループHDの執行役員が今回、企業同士の対立案件の片方の当事者の利害関係者になっていることに、朝日側が不問に付すという見解が妥当なのかどうか、ぜひとも検討いただきたいと思う。

私個人や一部の人は、朝日放送の考えは、コロワイドが運営する居酒屋「甘太郎」の名称を彷彿とさせるほど、ずいぶんと甘いように見える。

念のため、誤解があってはならないので最後に言っておくが、私自身は放送法4条の改正論者ではある。「戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由独立の確保」(声明より)が放送法の理念であり、それを尊重すべきだという田原さんたちの主張には一部賛同する。権力が朝日放送の番組内容に不当に干渉することには反対だ。

しかし、そもそも放送法で政治的公平性の縛りが強すぎるから、権力者の介入を招きやすいのではという考えを採る私は、田原さんたちとはかなり異なる。むしろ4条の規制を大幅に緩和 or 撤廃させたほうが結果として、報道内容の自由度を高めるのではないか。

それでも、高市大臣の「出馬」を要望するのは、現行の放送制度が報道にフェアネスを厳しく要求しているからだ。役員自身が番組づくりに関わっておらず、所属先が日々の放送業務をしていない持ち株会社であるからといて、グループとしては放送事業者である以上、企業紛争の片方の当事者と安易に利害関係を結んでいいわけではあるまい。

高市大臣と総務省が事態を注視し、必要があれば何らかの対応をとることを期待している。