根が深い差別問題が起こした悲劇

アメリカで人種差別に対する抗議活動が激しさを増しています。
発端は先月25日にミネソタ州のミネアポリスで黒人が警察官に押さえつけられて死亡した事件です。近くにいた人が撮影した動画を私も見ましたけれども、抵抗のしようがない黒人の首に、警察官が膝を押さえつけて馬乗りになっていました。押さえつけられた黒人男性は、息ができないと訴えてその後死亡しました。すでにこの警察官は、ミネソタ州法の第3級殺人罪(殺害の意図はないまま、不道徳な考えから人命を無視し、著しく危険な行為で他人を死亡させた)で起訴されました。

正直、私はまたかと思いました。
アメリカではこの種の事件というのがこれまでも繰り返されてきました。
過去にも1991年3月にロサンゼルス市内を運転中にスピード違反で車から降りた黒人男性に警官4人が激しい暴行を加えた事件や、2014年7月にもニューヨークで黒人男性が警官に取り押さえられ、「息ができない」と叫んだ後に亡くなった事件がありました。

日本人の私でさえ「またか」と思うわけで、アメリカでは黒人もヒスパニックもアジア系もそして白人も、この抗議活動に参加し、150の都市に拡大しています。

しかし、一部暴徒化している点は感心できません。暴徒化していることから40都市で、夜間外出禁止令が出されています。

警察官の黒人に対する差別、これには背景があります。黒人の犯罪率はやはり高い上に、警察官としては黒人に対して厳しい対応をとっている、それが差別にもなっているわけです。

例えばNYPD(ニューヨーク市警察)の2019年データによると、殺人事件の容疑者では62.4%が黒人、白人は3%ですから実に20倍、強盗事件は66.2%が黒人、白人が4.3%ですから、実に15倍の開きがあります。

もともとアメリカには1865年の南北戦争終了まで憲法上、奴隷制が認められていました。最初から差別として連れてこられた黒人がいたことになります。
そして、差別や偏見が残り、教育格差も生まれ、それが所得格差にも繋がってきました。これらは今回の新型コロナウイルスの感染拡大の背景とも繋がってきます。テレワークできる仕事、できない仕事というのは職種の差とも言えますけれども、それは学歴の違いということでもあり、それは人種の違いということにも繋がってきます。

テレワークができれば感染する可能性は低いですし、巣ごもりですからお取り寄せもできます。一方で現場に出て行かなければいけない仕事であれば、感染リスクは高まり、密集したエリアに住んでいて交通機関を使うということになるわけです。

国民が等しく医療を受けられる日本と違い、アメリカでは医療受けられるか否かにもそうした差が出てきます。例えば、新型コロナウイルスの死亡率は同じアメリカ人でも、アフリカ系の人は白人の2.4倍、ヒスパニック系、アジア系は2.2倍というデータもあります。

そして更なる背景としては、この10年ほどで格差が世界中で拡大してきました。アメリカでも当然そうですが、みんなが経済成長の恩恵にありついていたわけではありません。

そうした背景が幾重にもあり、今回の抗議活動に至ったわけです。しかし、先ほども言ったように暴徒化する、暴力的になるというのはいただけません。
トランプ大統領は、「略奪が始まれば襲撃する」と言っていますけれども、火に油を注ぐような発言もいただけないと思います。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。