持続化給付金業務委託について:法的視点からの論点整理

2020年06月05日 06:01

持続化給付金で話題の電通、パソナ(flickr)

ついこの間、府中市における入札情報の漏洩事件についてのコラムを書いたばかりだが、世間の話題は持続化給付金に係る業務委託に集まっている。このケースも受発注者間で不適切な情報のやりとりがあったのではないかとの疑惑であるが、契約額も大きく、新型肺炎絡みの事業なので、各紙大きく取り上げている。

筆者のところにもメディア各社からの取材がきて、その都度、関連する法令や制度について紹介、解説しているのだが、それならば文章の形で残し、「まずそれを見てください」といった方が効率的だし、読者一般の便宜にもなると思い、筆をとることにした。

確かに、今与えられている情報は「断片的」である。十分な材料のない中での「考える筋道」の提示なので、推測的なことに止まらざるを得ない部分が多くなることを予め断っておく。

発注機関の対応は不正なのか?

まずよく聞かれるのが、「発注機関の対応は不正といえますか」というものだが、結論からいえば、「ケース・バイ・ケース」としかいいようがない。事前のヒアリングは不公正だ、というが、何をどうヒアリングしたかによる。そもそも事前のヒアリングもしないで仕様書を書く方が無責任だともいえるのであって、問題はその仕方である。

このケースは大きな額だが、緊急性が高いということで仕様にかかわる事前の意見招請の手続などはしていないのだろう。ヒアリングを通じて使用を決定し、公告し、説明会、そして応募、入札という手続を矢継ぎ早に進めている。公告から、あるいは説明会から応募まで数日しかないとするならば(それ自体は法令上認められている手続である)、規模が規模だけに業者は書類の作成に困難をきたすかもしれない。本当に業務遂行体制が整えられるのか、積算は正確か、価格はどこまで下げられるのか、赤字になるリスクはないのか等々、業者選定のスキームに合わせる形で、考えなければならないことは多い。

今回の競争入札は総合評価方式だという。提案書の作成を伴う総合評価方式の場合、ますます時間的制約がネックになる。仮に公告段階で初めて公になった仕様書(案)の具体的内容、提案すべき内容、総合評価のルール等について、公告前に知らされていたならば、当該業者はその分、時間的な猶予が与えられることになり有利となる。裏を返せば、そのような有利になる情報が提供されていないならば、入札の公正を害するとまではいえないことになる。だから、「ケース・バイ・ケース」としかいいようがないのである。

事前のヒアリングで何がやりとりされていたのか、がポイントになる。本来であれば、公告前の特定業者との事前のやりとりがあっても、仕様書等公告段階で明らかにされる内容について意見招請の手続を踏まえてオープンに批判させる機会を設けることで、入札の公正を担保する手続もあるのだが、非常に短い期間での手続が要請される中、入札の公正を担保する仕組み作りは、もはや条件の平等化しかない。

「公正」だったかどうかのポイント

競争入札という手続を採用した以上、特定の業者が他の業者にオープンにされていない内部情報を発注機関と共有することは「入札の公正」を疑わせるものになる。裏を返せばオープンになっている情報を提供したところで、問題にはならない。ポイントは結局、何がやりとりされたのか、である。

関連する法令は、官製談合防止法(正式名称は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」)と刑法典上の公契約関係競売入札妨害罪だ。両方とも、「入札の公正を害すべき」行為が犯罪となっている。そのうち情報漏洩行為が多くを占め、前回のコラムで触れた予定価格や最低制限価格の漏洩がその典型である。

ここでいう「公正を害すべき」とは「公の競売又は入札が公正に行われていること、すなわち入札等の参加者が平等な取扱いの下でその意思に基づいて自由に競争しているということに対し客観的に疑問を懐かせることないしそのような意味における公正さに正当でない影響を与える」ものとして理解されており、少なくとも特定の業者が、入札における平等を害する形で有利になる状況が想定される以上、それが便宜だったとの抗弁は通用しない(発注機関の悩みは十分理解できるが)。

なお、各省庁が策定する発注者綱紀保持規程でも、秘密にすべき入札情報の保持、特定の業者を有利にするような接触の禁止について定められている。

繰り返すと、この要件の該当性を論じるためには、そのやりとりの具体的な中身が明らかにされなければならない。

今回のケースで疑念が生じるところ

一連の報道を見て驚いたのは、これだけ大きな事業をこれだけ短時間で、それも総合評価方式で実施するという点である。総合評価はどのようなスキームものであり、何をどう評価したのだろうか。業者は応札にあたってどのような作業を求められたのであろうか。それも気になるところである。

ここで比較の対象になるのが、10年ほど前に問題になった年金機構発注の「紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ業務の入札」に係る不正事件である。この事件では、紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ業務を発注する年金機構のある職員が、これまでに経験したことない業務委託がうまくいくかを懸念して、ある業者に再就職した旧社会保険庁OBに対して当時未開示だった仕様書案等を提供し、アドバイスをもらっていたところ、その業者が入札に参加し落札したのである。

本人は、最初は発注機関によかれと思って情報交換をしていたが、結果的に業者側を競争上不当に利する結果となってしまった。その他にも、総合評価方式における競争相手の技術点を漏洩するなど、さらに悪質な逸脱があったことから立件され、官製談合防止法等で有罪となってしまった。

筆者も参加したこの事件に係る検証委員会の報告書(「紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ業務の入札に関する第三者検証会議報告書」)を参照いただきたい。

本件において、発注機関はコンプライアンスを意識して情報交換、意見交換に臨んでいたと思いたいところであるが、公告期間の短さを勘案するならば事前のヒアリングによって得た情報次第では、随分と有利に手続を進めることができたのではないか、との疑念が自然に生じるのもまた否めない。その点について発注機関は十分なディフェンスを行うことが求められるだろう。

随意契約の生命線は透明性であり、競争入札の生命線は競争の公正さにある。それが担保されている限り、競争の結果を受け入れなければならないが、そこに疑義が生じてしまえば、やはり透明性の問題に行き着くことになるのである。

問題が沈静化するか、さらに炎上に向かうか、次にくる情報次第だろう。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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