ジョンソン提案は欺瞞? 香港の若者にこそ救いの手を差し伸べよ

2020年06月09日 06:00

自らも感染した武漢発の新型コロナウイルスから復帰して、ジョンソン英首相はどうやら対中強硬姿勢に転じたようだ。容認していたファーウェイ5Gの政府採用を5月下旬に一転させ、G7に豪・韓・印を加えたファーウェイ包囲網「D10」まで提唱した

英保守党公式サイトから

そのジョンソンが2日、昨年6月からの香港デモの大弾圧をほぼ静観してきた姿勢も変え、ようやく旧宗主国として香港に救いの手を差し伸べた。中国が「香港国家安全法」を施行したなら、香港人の移民規則の変更を検討するというのだ。

3日のAFPによれば、ジョンソン首相は、現在、香港住民の35万人が英国にビザ(査証)なしで入国し最長6か月まで滞在できる英国海外市民パスポート(BNO:British National Overseas passport)を持っているが、さらに250万人にこの申請資格を付与することを検討すると述べた。

ちょっと待った、と思う。香港の人口は740万人、残りの455万人は置いてけぼりか。そこで、BNOなるものの来し方と今を調べてみた。


BNOは香港返還の英中共同宣言の発効した85年にできた。それまで香港を含む大英帝国の旧植民地の住民はCUKC(Citizens of the United Kingdom and Colonies)とされ、英国への出入国や居住の無制限の権利が与えられたものの、それは白人に限られた。

81年の国籍法改正で、CUKCは祖先と出身地に基づく国籍毎に分類され、香港人は一旦、香港での住居権のみを持つBDTC(British Dependent Territories citizens)になった。そして英中共同宣言に付された覚書に沿って英国海外市民(BNO)となる道が開けた。

が、BNO取得は自動的ではなく、87年7月1日から97年12月末までの登録と申請(爾後も申請は可能)を必要とした。つまりBNOの申請資格は、香港に居住し期限までに登録した者に限られ、何らかの事情で登録しなかった者と、返還後に生まれた現在23歳以下の者にはその資格がない

彼らは現在、香港特別行政区パスポート(HKSAR)を持つ中国籍となっている。香港に7年以上滞在した外国人も永住権とHKSARが取得できるが、HKSARの保持者が自動的に中国本土パスポート保持者になる訳ではない。

昨年8月、香港民主化デモ(Studio Incendo/Flickr)


実は今回のジョンソン発言は、逃亡犯条例改案への抗議デモ対応で中国が武装警察を深圳に展開した昨年8月半ば、英下院外交委員会のTom Tugendhat委員長が、香港市民への支援策として彼らに英国籍を与えるべきだとツイートしたことに端を発する。

関連で、18年1月の香港紙SCMPは、マカオに絡む興味深い記事を報じていた。マカオは99年12月にポルトガルから中国に返還され特別行政区になったが、その際、英国がポルトガルに、マカオの住民に完全な市民権を与えないよう圧力をかけたというのだ。(マカオには09年に「国家安全法」導入済)

諸々あっても、旧宗主国の英国が真剣に香港人を救済するのは結構なことだ。ただ、縷説した内容からすると、AFPの「さらに250万人にこのパスポートを申請する資格を付与することを検討」との表現は少しおかしい。別のSCMP報道の原文を訳すとこうなった。

今日、約35万人のその地域(*香港)の人々がBNOパスポートを持っており、他の250万人はそれ(BNOパスポート)に適用される資格があるだろう。

つまり35万人は87年7月から現在までにBNOを申請した人数だ。申請者は01年に139,159人だったのが17年は19,741人になった。しからば、他の250万人はBNO資格を登録済だが未申請の者のはずで、現在も申請可能ということになる。

とすれば英国がやるべき救済は、返還前10年間に資格登録しなかった者及び返還後に生まれた23歳以下の若者(合計350万人余り?)にBNO取得の道を開くことだ。(返還後に本土から移入した、人口の1割以上といわれる中国人永住者=香港版外省人の扱いが残るが、ここでは省く)


8月とされる「香港国家安全法」施行で、米国が「香港人権法」や追加制裁を発動すれば、香港は国際金融ハブでなくなり、単なる中国の一部に成り果てよう。それは香港人のみならず、米ドルの玄関が狭まるはずの中国も望む姿でなかろう。

だが、保身しか眼中にない共産党幹部が意に介すか?李克強は全人代後の会見で、一人当たり年収が3万元(約45万円)で、6億人は月収1000元と述べた(参照:大紀元)。6億の多くは、農民戸籍や、ウイグル、チベットや内モンゴルなど自治区の貧困層か。国際金融ハブでなくなった香港の民も、彼らと同じ境遇に陥る可能がある。

ジョンソンは、BNOパスポート所有者には「市民権への道とそこへ向かう労働権付与を含む」とも述べた。英国の移民規則は英国人以外の者に、英国滞在5~10年後の市民権申請資格付与を定めている。是非ともanother HongkongersへのBNO付与と市民権申請資格の緩和を望みたい。

一方で、白人社会での人種差別や激しい抗議活動を見るにつけ、台湾贔屓の筆者としては香港人大歓迎の台湾移住を勧めたい。邱永漢の名作「香港」や「濁水系」にある通り、戦後の一時期は台湾人が国民党の白色テロを逃れて入港した。今はその恩返しを民進党政権が申し出ている

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