「しながわ活力応援給付金」に関する一考察

2020年06月09日 06:00

品川区は6月1日、「しながわ活力応援給付金(仮称)」(以下「応援給付金」という)を区議会に提案すると発表した。

品川区役所外観(Wikipedia)

応援給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大により生活に多大な影響を受けた区民に対し、外出自粛要請等に伴う負担の軽減と、区全体の活力を取り戻すことを目的とするもので、区民1人当たり3万円(中学生以下には、1人につき2万円を加算し1人当たり5万円)を給付する予定である(申請方法は、申請窓口は設けず、郵送申請のみ)。

給付対象は品川区民約40万人(中学生以下は約5万人)であり、2020年度一般会計補正予算案(第3号)として、約135億円を見込む。品川区の2020年度一般会計の歳入(当初予算)は約1883億円なので、135億円はその約7%を占めるが、応援給付金は、区の「財政調整基金」を取り崩すことで賄う予定のようだ。

財政調整基金は、区の貯蓄に相当するもので、2020年度一般会計補正予算(第2号)で230億円があり、この一部を利用する仕組みである。自治体が予算管理で設ける基金にも様々な種類があるが、そのうち、財政調整基金は、経済情勢の変動などで財源が不足する場合にその全部または一部を利用することを目的に設置するもので、千代田区や中央区なども一定の基金をもつが、その保有額は異なり、それは過去の財政的な努力の結果を示すものでもある。

このため、財政調整基金のストックが少ない場合、品川区と同じことをしようとしても対応できない自治体も多い。特に、東京都の特別区(23区)のように、財政が豊かな自治体と異なり、人口減少などで財政的に厳しい状況に直面している地方の自治体がそうである。また、同じ都内の自治体でも、財政非常事態宣言をしている日野市も不可能であろう。

一般的に、品川区に限らず、東京都の特別区の歳入のうち大きな収入源になっているのは、特別区税や特別区交付金、地方消費税交付金などだ。このうち、特別区民税はいわゆる「住民税」だが、特別区交付金は、大雑把にいうならば地方交付税交付金の東京都23区版に相当する。

すなわち、特別区交付金とは「都と特別区及び特別区相互間の財源の均衡化を図り、並びに特別区の行政の自主的かつ計画的な運営を確保するため、固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税の収入額の一定割合を、特別区財政調整交付金として特別区に対して交付」(地方自治法282条)するものをいい、特別区交付金は法人数や固定資産評価額などの影響を受ける(注:地方自治法施行令の一部改正(2020年4月1日施行)に伴い、法人事業税の一部を法人事業税交付対象額として特別区交付金の財源に加えている)。

また、地方消費税交付金は人口のほか従業員数に基づき配分を受ける。このような意味で、特別区は(間接的に)法人などからの税収が豊かとなり、その庁舎で立派なものが多いのもそのためだが、今回の品川区の試み(応援給付金)で懸念されるものは以下の2点と思われる。

写真AC:編集部

第1は、ほかの地域からの戦略的な住民票の移動を引き起こす可能性だ。筆者の調査不足かもしれないが、現在のところ、品川区は応援給付金の支給条件のうち、住民票の登録がいつ時点の住民に支給を行うのか、明らかにしていない。もし、これから一定期間の間、住民票の登録を行った人々にまで支給を行う可能性がある場合、応援給付金の獲得を目当てに、ほかの地域から戦略的に住民票をし、品川区に登録する人々が出てきても不思議ではない。

例えば、4人家族(父母・中学生以下の子ども2人)では、合計16万円の支給となる。一時的に6万円のアパートを借りて、住民票の登録を行っても、10万円の利益を得ることができる。あるいは、品川区に親類や友人などがいれば、その自宅の一室を一時的に1万円で借りる契約を行い、応援給付金を獲得する戦略をとる人々も出てくる可能性がある。

この意味で、理論的に応援給付金は一時的な家賃補助と同等となるが、千代田区や新宿区などでは、今回の問題(感染拡大)が発生する以前から、一定の所得以下の家計に対し、数年間、月額で数万円の家賃補助を行うケースもあり、応援給付金の効果は限定的となる可能性もある。

第2は、非効率な自治体間の競争を招く可能性である。東京都の特別区でも、品川区と同じ給付を行うことが難しい自治体もあるはずだ。しかしながら、品川区が給付を行うことで、品川区以外の特別区の区民から「うちの区ではなぜ給付できないのか」といった問い合わせや政治的な要望が高まる可能性も否定できない。

もし、その要望に対応する形で、いくつかの特別区が似た給付を実施する場合、それが特別区全体に波及し、品川区以外の自治体の財政を悪化させてしまう可能性がある。応援給付金とは異なる事例だが、子ども医療費の助成では、自治体が競うように助成を拡充しており、非効率な自治体間の競争の結果、自治体や国の財政を悪化させる要因となっている。

もっとも、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、その経済的な影響が深刻さを増すなか、今回の試みの趣旨(多大な影響を受けた区民に対し、外出自粛要請等に伴う負担の軽減と区全体の活力を取り戻す)は十分に理解できるものであり、制度設計の詳細を含め、今後の動向を注視する必要があろう。

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