「9月入学」頓挫でも残った宿題

鈴木 寛

新型コロナウイルス感染対策による一斉休校の長期化を受けて急浮上した「9月入学」移行ですが、少なくとも今年度や来年度からの導入については、結局1か月ほどで見送りの公算になりました。

写真AC:編集部

「9月入学」は、17人の知事が4月下旬、有志で導入を求めるメッセージを出したことに始まり、一部の野党も賛同。安倍総理も直後に行われた国会質疑で「前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と述べるなど前向きな姿勢をみせたことで、当時は、ひょっとしたら歴史的な転換もありうるのではないかという機運がありました。

しかし、5月中頃から自民党内部で慎重論、反対論が続出しました。特に日頃は規制改革やIT推進などで改革派とみられている若手・中堅の60人以上も慎重論に回って、「子どもたちの学びが半年遅れになる」「制度移行には30本以上の法改正など多くの制度改正が必要になる」などを理由に党幹部に提言を申し入れたことは大きかったようです。

私は前回のコラムで大学の議論と小中高の議論を分けるべきと申し上げました。そして特に影響の大きい小中高については、保護者、児童・生徒、教職員の意見も十分に踏まえ、当事者である校長先生に、意見を集約してもらうべきと申し上げました。

休校中だったので、子どもたち、保護者の意見がどこまで出てきたかは微妙なところですが、全国連合小学校長会は5月14日、声明文を出して拙速な議論に事実上待ったをかけました。全国知事会でも、長野県の阿部知事が冷静に議論をリードしてくれました。

5月中旬にNHKが「9月入学」に賛否を尋ねた世論調査では賛成41%、反対37%とほぼ二分する状況になりました。ただでさえ大きな制度変更には世論の力強い後押しが不可欠です。世の中全体がコロナの第一波をしのぎ、経済社会活動の再開が最優先という中では、時間がなさすぎました。

一方、議論の途中で、教育経済学者の中室牧子・慶應大教授が、入学を半年遅らせた場合の逸失生涯所得などの問題点を説得力あるデータとともにまとめてネットに公開。影響力のある専門家の指摘もあって、当初は9月入学に前向きだった方々の態度が変容していきました。いわゆるエビデンスベーストの議論の有用性が確認できた点では、これまでの反対論の広がり方とは少し違うようにも感じられました。

いずれにしても議論は振り出しです。この決着で、賛成派も反対派も、お互いほっとしてもらっては困ります。今、一番、検討しなければいけないのは、大学入試のタイミングです。私は、今の入試のタイミングを遅らせて、高校卒業後の4月とか5月に合格発表とすべきだと思います。

大学の入学は、慶應のSFCはじめ春・秋併用となっており、学部ごとに各大学の学長が定めることができることとなっていますので、高校関係者と大学関係者が協議して、大学の秋入学枠の定員を大幅に増やすべきだと思います。秋の入学までの時間は、学力が十分な人たちは、ギャップ・タームにして、様々な実地経験を国内外で積んでいけばいいですし、学力が十分でない人は、改めて、大学での学びについていけるような、学び直しを秋までにやり直すことにあてていけばいと思います。

さらに、高校の修得主義の要素を増やして、学力修得が不十分な場合は、卒業を半年のばして、3年半の通学を可能にすることも検討すべきです。一方で、学力修得が確認できれば、授業時数にかかわらず単位認定を行い、2年半での早期卒業も認めるべきです。

現在は、定時制だけが修業年限を3年以上としており、9月30日の卒業も認めていますが、全日制も同様に扱いにすべきです。ぜひ、こちらの議論をしっかりと行ってください。


編集部より:このエントリーは、TOKYO HEADLINE WEB版 2020年6月8日掲載の鈴木寛氏のコラムに、鈴木氏がアゴラ用に大幅加筆したものを掲載しました。TOKYO HEADLINE編集部、鈴木氏に感謝いたします。