「コロナ禍で地方移住活性化」は幻想に過ぎない理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
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最近、あちこちで「コロナ禍で地方にチャンス!」というのを耳にする。本当だろうか?東京都の人口はとうとう1,400万人を超えて、人口流入数No.1が続いているというのに。

写真AC:編集部

リモートワークが浸透しても、コロナのようなパンデミックがやってきても、筆者は地方移住が本格化する未来は来ないと思っている。大局的な目でみれば、一過性の感染症爆発などより、恒久的に続くと予想される少子高齢化の方が圧倒的なインパクトだろう。しかし、それでも東京から人が地方に流出することはないと思っている。

…否、今後は、経済発展を続けて大国化した中国に人材が流出することを心配するべきではないだろうか。

人間の心は変わらない

我々は極めて高度な文明社会を生きている。手にはスマホがあり、町中には質の高い安価な商品が並べられている。ネットには無限の情報があふれ、人と人とがつながることも容易になった。一昔前の国王でも決して手に入れられなかった豊かな社会を、我々は生きている。

だが、ソフトウェアと呼んで差し支えない、人の心や感情は昔から変わらない。変化を嫌うのも、人とのコミュニケーションに快楽を感じるのも、物事を継続するのが苦手なのも、すべて人は太古の昔にDNAに刻まれた情報に突き動かされて生きている。

コロナ禍で感染拡大を防ぐために、人と人とは物理的距離を取ることになった。だが、多くのことはリモートで実現できるテクノロジー社会を我々は生きている。買い物はネット通販、コミュニケーションはSNS、情報収集はWeb、ワークスタイルもリモートでなし得ることができる。必要なテクノロジーは揃っている。

人間は社会的な動物であり、人との交流なくして生きてはいけない。そしてその交流とは、ネットを介したバーチャルでは完全に代替できない事実が見えてきた。リモートワークができる環境でも、すべての社会人がリモートワークでリアルワークと遜色ないパフォーマンスを出し、経済活動を続けていくことは、難しい。リモートワークで満員電車に乗らなくて良くなった!と喜んでいる人たちもオフィス通勤へと戻ることに安堵しているというデータもあるようだ。

テクノロジーは進歩しても、一時的にコロナが牙を剥いても、人々は東京へ集まる。それはソフトウェアたる人の心が東京という都市機能に魅力を感じているからだ。

 東京に人が集まるのは東京にしかない価値があるから

なぜ、ネットで多くの価値を得ることができるにも関わらず、人は東京へ集まるのだろうか。答えは簡単、東京にしかない魅力が豊富に存在するからだ。

例として、集合していることから付加価値が生まれる点が挙げられる。東京で買い物をする場合と、地方で買い物をする場合とでは全くと行っていいほど意味合いが異なる。

東京で買い物をするととても楽しい。筆者は首都圏に住んでいる時代は、秋葉原を散策するのが大変楽しかった。徒歩圏内のエリアに大型電器店がありゲームショップが並ぶ。マニアックな商品ばかりを取り扱う店も多い。買い物をする予定がない時に秋葉原を歩くと、衝動買いが多くなってついつい財布が薄くなってしまったことを懐かしく想起する。

人は買い物をする時に、多くの選択肢の中から選ぶことに多幸感を得られるという状況が存在する。筆者が秋葉原の散策で得られた楽しさもこれに該当するだろう。そしてこうした選択肢の多さは東京ならではのものは少なくない。

一方で、地方においてはそもそも選択肢が非常に乏しい。筆者は大阪生まれ、アメリカ・シカゴに大学留学し、東京で働いた。アラサーまでずっと都会で暮らしてきた。その後、起業して地方に移住したので、都会と地方の違いは肌感覚で理解しているつもりだ。ここに住んでからは買い物における選択する喜びを感じたことはない。買い物のすべてが目的買いに終止している。もちろん、地方を下に見ている気は毛頭ない。物理的、絶対的な集合の数が不足しているので、事実として選択多寡による幸福感が少ないという現実論を説いているつもりだ。

そしてこの状況に取り立てて不満はない。筆者が地方移住をしたのは、経済的合理性によるものだ。脳内からは、買い物における選択の楽しさや、リアルの出会いを求める回路は失われており、つまりはもう消費に飽きたということだ。だから納得してこの状況に身を置いている。同じように消費することに快楽を感じない気質の人も、取り組んでいるビジネスによっては地方移住に経済的合理性を見出すだろう。だが、それは全体からすると少数派だと考える。多くの人にとってやはり東京は魅力的な都市だ。

東京に人が集まるのは、東京にしかない価値が無数に存在するからだ。情報や人が集中することで、ビジネスが活性化し経済的合理性を求めて優秀な人材の求心力となる。この連鎖で東京は人を集め続けている。今後もそれは変わらないだろう。

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