「リベラルの砦」ミネソタ州が、悲劇の震源地と変貌した

2020年06月16日 06:00

Aaron Fulkerson/Flickr(編集部)

アメリカの歴史は、黒人への差別と迫害を避けて通れないが、いま、全米から全世界に波及したブラック・ライブズ・マター(みんな平等であるべき、黒人の命も大切だ)運動は、中西部ミネソタ州のミネアポリスでの事件が発端だ。

白人警察官が黒人ジョージ・フロイドさんの首をひざで圧迫、死に至らしめたこのミネアポリス事件は、テレビで何度も放映され、地元テレビ報道によると、そのひざで圧迫の時間は8分46秒に及んだ。

まるで毛を刈るヒツジをねじ伏せる粗暴な警察官の姿には、これがリベラルだったミネソタの出来事かと、わが目を疑うほどだった。さらには南部ジョージア州アトランタでも、黒人男性のレイシャード・ブルックスさんが警察官に射殺される事件が起り、いま全米に抗議のデモが続いている。

米クリントン政権時代のミネソタ州ミネアポリス、州都セントポールに滞在した経験がある。両市は大河ミシシッピをはさむ双子都市。このミネソタ州は、かつては伝統的な「アメリカのリベラルの砦」と言われた。その代表地域がこの双子都市であり、ミネソタは人種、民族差別がほとんどないことを、市民たちは誇りとしていた。「ミネソタはアメリカの他の州は違うんだ」という意識だった。

Harshil Shah/Flickr(編集部)

またこの双子都市の雰囲気はアメリカンな文化というよりは、ヨーロッパふうだった。ここでは、ミシシッピ川を、ヨーロッパ大陸を縦断し黒海に注ぐ大河ドナウに見立て、まるで中欧音楽の都、ウィーンのように仕立てた夏のフェスティバルもある。ミネアポリスの夜の街を歩いても、店に入っても、危険な空気はまったくなかった。警察官たちもにこやかだったが、ミネソタはいまやすっかり変わってしまったのか。

黒人のジョージ・フロイドさんへの殺人罪で訴追された警察官は他州出身者と信じたかったが、地元ミネソタ生まれのデレク・ショービン容疑者。ドイツ駐留米軍の憲兵(MP)を経験し、2001年からミネアポリス市警で働き、何度も功労があったとして表彰されたが、犯罪現場での行動は、やりすぎの側面が強い。他に3人の警察官もかかわっていたが、そのうち2人はアジア系の名前であるのも、時代の流れを感じる。

無数の大小湖沼と、森林地帯を持つミネソタ州の人々の大半は、同じ環境の北欧とドイツからの移民の子孫だ。そのミネソタ生まれの人物にはノルウェー系で、カーター政権時の副大統領、その後、駐日アメリカ大使を務めたモンデール氏がいる。ミネソタは北欧特有の民主主義の伝統も受け継いでいる。走る車もスウェーデンのボルボ、サーブに、ドイツのフォルクスワーゲンがやたらに目に付くところだ。

さらに、ミネソタ人は、この中西部の英語がアメリカ大陸では標準英語だと自慢もする。多くのメディア人を生んできた歴史もある。もちろん近年は民族も多様化し、黒人、アジア系、ヒスパニックの移民が増えており、1980年代にはインドシナからカンボジア難民も積極的に受け入れた。コミュニティーの集会では、「民族それぞれの伝統衣装で”ドレスアップして”参加してほしい」とのウィットのある要望も出されるほど、リベラルさに余裕が見られた。

そのミネソタが、かくも殺ばつとした空気に包まれるとは、単に時代の流れだけとは言えない要素があろう。現代の社会、市民の空気をとらえられないトランプ政権と、さらに中国からグローバルに広がった新型コロナ・ウイルスの最大被害国となったのがほかならぬアメリカという点がある。

その直接の被害者である市民たちのやり場のない気持ちも、全米でいつも起こる夏の暴動を拡大させる素因となっているのではないだろうか。

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