キッズライン2人目の性犯罪者逮捕の衝撃ーマッチングプラットフォームが犯罪の温床にー

2020年06月16日 06:00

写真AC:編集部

ジャーナリストの中野円佳さんから速報が送られてきた時に、言葉を失いました。

【速報・詳報】キッズラインのシッター2人目、わいせつ容疑で逮捕 内閣府補助対象、コロナで休園中に被害

性犯罪の詳細が綴られたその文章を、吐き気を抑えながら読み進めるにあたって、確信しました。シッターマッチングプラットフォームが、性犯罪の温床になってしまっている、と。

「やめてって何度も言ったのにやめてくれなかったの!」

中野円佳さんの記事を引用します。

私の手元には、Aさんが途中から機転を利かせて録音したという長女の証言の音声データがある。

「やめてって何度も言ったのにやめてくれなかったの!」

耳を覆いたくなる告白。

Aさんの長女の証言によれば、4月末から5月25日にかけて8回荒井容疑者のシッティングを利用したうち、おそらく2回目か3回目から毎回のように、外遊びに連れていった公園のトイレで、あるいは大胆にもAさんが在宅勤務をしている隣室でも、わいせつ行為をされていたようだ。長女が母親のいる隣室の扉を開けようとすると、「ママはお仕事してるから入っちゃだめだよ」と言われてしまう。

本当にやりきれない思いがしました。被害に遭われたお子さん、そしてご家族の気持ちは如何ばかりか。お子さんとご家族の心的外傷が早期に癒やされることを、心から願っています。

再発を防止するために、キッズライン社の問題点、そして社会的に必要な取り組みについて、関わるステークホルダーがしなくてはいけないことを述べたいと思います。

 再発防止策を講じる時間はあった

1人目の逮捕者、橋本容疑者は2019年11月14日に犯行に及び、11月中旬に警察から連絡を受けて、キッズラインが活動停止処分を行っています。 (参照: シッターアプリ大手「キッズライン」で起きた ベビーシッター男児強制わいせつ事件の全容」 AERA dot

2人目の荒井容疑者が性犯罪を起こしたのは、今年の4月末から5月25日にかけて。(参照:キッズラインのシッター2人目、わいせつ容疑で逮捕 内閣府補助対象、コロナで休園中に母在宅勤務の隣室で」中野円佳

この間、約半年。性犯罪というのは、「魂の殺人」とも言われる、子どもの一生に関わる非常に重大な事案です。

自分の経営する団体で同様のことが起きたら、全ての情報を公開した上で被害にあった可能性のあるご家庭のケアを最優先に、1件1件連絡と謝罪をすると思います。そして、事業存続をお許し頂けるのであれば、徹底して再発予防策を講じることに全力を尽くします。

というのも、エイブルの研究等で明らかにされているのは、1人の性犯罪者から生み出される被害者数は平均380人と推定できるため、その他多くの被害者を生み出している可能性が高いためです。 (参照:Conduct Disorders in Children and Adolescents: Etiology, Assessment, and Treatment

また、子どもは自分がされたことを理解することができなかったり、加害者に「ママに言ったら地獄に落ちるよ」等口止めをされるケースも多く、親に言うことができないことが多々あるからです。

写真AC:編集部

それによって、小児の性犯罪は闇に埋もれてしまうことが多く、表にでる年間900人の被害者という統計は、暗数を含めればその3倍以上ではないか、と専門家の間では考えられています。 (参照:リディラバジャーナル【小児性犯罪】子どもを狙う加害者たちの実態

子どもの時の性犯罪/性暴力のトラウマは、その後の人生に大きく影響を与える場合があります。その時には何も無かったとしても、大人になった後に恋人をどうしても受け入れられなかったり、逆に性加害に走ってしまったり、と様々な負の影響をもたらす可能性があります。

(注:性暴力を受けてもその後の人生において問題が表出しないこともありますし、乗り越えられるレジリエンスを発揮できる力も子どもは持っています。読者の中でお子さんのことでご不安をお持ちの方は、専門の医療機関や相談機関にご相談ください)

よって、被害を受けた可能性のある子どもの家庭には、すべからく即座に連絡をし、適切なケアを児童精神科等、医療機関で受けて頂くことを勧めるべきであったと思います。半年間あれば、その対応はできたはずだと考えます。

 男性シッター排除は解決策にならない

また、キッズライン社は、6月4日に男性シッターのサポートの一時停止を突然発表しました。これが統計的差別である、ということは、ジャーナリストの治部れんげさん等も指摘していることなので、ここでは深く掘り下げません。

キッズライン事件の「その後」 ジャーナリストが感じた“企業体質”とは

実務者として僕が指摘しなくてはならないのは、これは根本的な解決になっていない、ということです。

というのも、少年への性犯罪の約80%以上は確かに男性によるものですが、女性加害者も5%〜20%存在しており、性別レイヤーの要因のみに矮小化することはできません。(参照:The Social Psychology of Aggression

また、アメリカ法務省がシッターによる犯罪データで示すように、性犯罪は77%が男性ですが、身体的虐待は64%が女性シッターによるものです。(参照:米国法務省 

男性を排除して性犯罪の確率を減らしたとしても、依然として身体的虐待等のリスクは残り続けることになります。つまり、根本的には、厳正な採用を行い、しっかりとした研修を行い、機能する評価システムを構築する、巡回の仕組みを導入する等、「保育の質の管理」をすることに尽きるのです。

写真AC:編集部

例えば、フローレンスでは、以下の取組を行っています。
https://florence.or.jp/news/2020/06/post40785/

 マッチングプラットフォームのビジネスモデルをやめよう

こうした丁寧な取り組みは難しい、とキッズライン社は考えるかもしれません。なぜなら、プラットフォームは、サービス提供者と利用者を繋ぐだけの場であり、質の管理に法的責任を持たないから。それによって、質の管理にかかる膨大なコストを支払わないことで、低価格を実現できるから。

しかし、こうしたマッチングプラットフォームの論理は、もはや通じないのでは無いかと思います。というのも、例えばUberEatsであれば、運んできたラーメンが伸びたり、ピザがひっくり返っていたり、といったことがあっても、利用者がトラウマを負ったり命を奪われることはありません。「次は頼まないようにしよう」という判断も、大人であればできます。

一方で、キッズラインの場合、性犯罪や虐待があった時に、不可逆な痛手を子どもは負います。また、その行為自体、子どもが理解できずに闇に消えてしまう可能性もあり、加害者は犯罪行為を続けることが可能になります。更には子どもは適切な評価ができず、不適切なシッターに退出を促すこともできません。

つまりは、プラットフォームビジネスが前提とする「小さな市場の見えざる手による最適化機能」が、子どもの命のかかったベビーシッター領域においては存在していないのです。

こうした悲しむべき事件を起こさないためにキッズラインが根本的にすべきことは、質の管理にお金と人をかけること。そのためマッチングプラットフォームというビジネスモデルを捨てる必要があるならば、捨てるべきではないか、と思います。

 キッズラインのステークホルダーがすべきこと

キッズラインの経営陣の皆さん。

「ベビーシッター文化をつくる」というのは、単に安くベビーシッターを使えるような社会をつくることではなく、安全にベビーシッターを使えるような社会をつくることです。そこを履き違えてしまったことが、今回の痛ましい事件に繋がったのではないでしょうか。

皆さんはきっと想いを持ってお仕事にあたっているかと思います。そしてその想いは本物だと思います。(少なくともそう信じたい。)子どもの命がかかっています。人生がかかっています。保育の質の管理に本気になってください。

キッズラインの株主の皆さん。

上場おじさんの二人がなぜキッズラインに参画したのか?という記事を拝読しました。「IPOのプロ」の方々にとっては、上場することが非常に重要なのだと思います。

しかし、シッターという仕事は、子どもの命を預かる仕事であり、子どもの命より上場を優先する姿勢を、投資先に取らせてしまってはいけないのではないでしょうか。上場ができる程儲からなくても、子育てを助けるインフラとして持続可能な成長をして、社会に愛されていく、という道もあるのではないかと思います。もう一度、投資先への適切な関わり方について考え直して頂けると嬉しいです。

キッズラインを利用するユーザーの皆さん。

大変衝撃的だったかと思います。特に被害に遭われたお子さんと親御さんにおかれましては、子どものいる親として、保育事業者の経営者として、心からの悲しみをお伝えしたいです。

その上で、被害家庭以外のご家庭の皆さんに関しては、シッターマッチングアプリの特性(質の担保がなされない代わりに安価)をよく理解して、利用されることを、改めて注意喚起したいと思います。また、そのリスクは子どもに直接降りかかってしまうこと。子どもが犯罪にあっても自らその被害をしっかり説明することは稀であることも、申し添えておきたいと思います。

そのため、シッターについては、マッチングでは無く、質の担保に力を入れている事業者を選ぶ方がリスクを低減できます。また、定期利用の場合は、初回はシッターとよくコミュニケーションを取り、子どもとのやりとりを観察しておくことも重要でしょう。

 政治家・メディア・業界関係者がすべきこと

さらに、政府当局は、マッチングアプリにおいても、プラットフォーマーの責任を問う法規制を行うべきだと思います。特に補助金を出している、内閣府と東京都は質を鑑みた選定プロセスを組み込むべきです。でないと犯罪を助長することになってしまいます。

ふだん「子育て支援に熱心です」とホームページでうたっている国会議員や地方議員の皆さん。もしみなさんが本気ならば、教師や保育士等を採用する際、職場が性犯罪履歴を取得できる法改正に尽力してください。

長年僕は訴え続けていますが、ほぼ9割の政治家の方々は、本件に興味を持ってくれていません。でも、繰り返しますが性犯罪者は平均380人の被害者を生んでいます。彼らの治療と共に、被害が広がらないセーフティネットを作っていくべきです。

メディアの皆さん。

今回は中野円佳さんという個人のジャーナリストの方が勇気を持って取材を進められていますが、ぜひ大手メディア各社で本件を取り上げて頂けたらと思います。特に、性犯罪が繰り返される社会構造や仕組みの不在について、掘り下げて頂けると嬉しいです。

そしてベビーシッター・保育事業関係者の皆さん。

キッズラインの事件は、決して対岸の火事ではありません。私達だって、保育の質の管理を怠れば、いつ何時同じことが起きても全く不思議なことではありません。キッズラインを批判だけし、他人事化してしまえば、そこで私達は改善の機会を失ってしまうでしょう。

各社で再発防止策を話し合い、実行し、いち事業者や業界団体を超えて、子どもへの犯罪抑止の動きを取っていかねばならないのではないでしょうか。

連帯して、政府に性犯罪者の照会システム(日本版DBS)について要望していく。性犯罪防止の研修を横断的に行っていく等の取り組みをしていくことが重要だと思います。

キッズラインだけでなく、私達ベビーシッター・保育事業者全体が変わること。そしてこの社会全体が、子ども達を守るために変わること。この悲惨な事件を通して、そうした私達の責務が浮かび上がってきたのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2020年6月15日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。

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駒崎 弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事

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