北朝鮮の変調

北朝鮮が南北の経済協力の象徴であった連絡事務所を爆破しました。18年9月に完成したこの建物は北朝鮮内の土地に韓国が建設費約15億円を負担する形で生まれたものでした。いみじくも一昨日の本稿で想定外のことが起きる可能性があると申し上げていましたがその通りになりました。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

報道は一応、全部チェックしましたが、どれにも触れてない極めて重要な点があります。それは今回の爆破を誰が主導したのかわからないこと、そして金正恩氏の声明が本稿を書いている時点までには届いていない点です。私は金正恩氏の動静がどうも引っかかると述べましたが、今回の爆破は金与正氏が主導したのではないかという気がするのです。

理由は予告から行動の早さが金正恩氏の動きとは違うのです。いわゆる「駆け引き」がなくやったらやり返すという動物的な反応は正恩氏の今までの動きとは明らかに違います。与正氏が何らかの形で正恩氏からバトンを渡されつつあり、男尊女卑の同国で正恩氏ですらなかなか苦戦した軍の統率を行うにあたり、行動を起こすことで軍の信任を得、権力の引継ぎを行っているように見えるのです。

仮にそうだとすればこれは極めて危険な状態に入ったとみてよいでしょう。

まず、韓国は今までの北朝鮮融和政策を完全に見直す必要があります。もともと文大統領はリベラルな上に北朝鮮との距離を縮めることで接点を見つけるという方針で臨んできました。確かに当初は今回破壊された連絡事務所を作るなど一定の成果があったものの途中から北朝鮮の気を引くことに失敗します。トランプ大統領が板門店に行った際も文大統領は主役ではなくトランプ氏の同行者というポジションでした。

一方、中国外交部のコメントが不思議であります。「関連状況はよくわからない」「北朝鮮と韓国はひとつの民族だ。中国は隣国として一貫して韓半島の平和と安定が維持されることを希望する」とごく一般的な誰でもいえる対外発表に留めています。

これをどうとるかです。中国は金正恩氏と与正氏の現状を既に知っているがその分析ができていないか、知らぬふりをしているかのどちらかであります。

世の中、スパイだらけというと多くの方はびっくりするかもしれませんが、はっきり申し上げるとその気になればどんな情報でも今は抜けます。そして主要国では日本以外、諜報活動は極めて進んでおり、その手口は込み入っています。特に中国はその点において世界最先端を行くわけで北朝鮮の上層部の情報を知らないわけがないのです。個人的には「知らぬふり」をしているのだろうと察します。

それを裏付けたのが「同じ民族だから仲良くせよ」という発言です。半島の人が仲良く一つにまとまらないことは人種的にも歴史的にも非常に明白な事実であり、力による支配しか関係を維持できません。北朝鮮と韓国が融和政策を踏まえて終戦するというシナリオは基本的にありえないと考えています。

それは逆説的ですが北朝鮮が経済的に貧しすぎるため、韓国と同等の立場になれないという金一家の危機感の表れでもあるのです。よって力による制圧が北朝鮮にとって唯一の方法であり、その相手はアメリカという強大な国ではなく、隣の韓国でしかないのです。歴史的にごく普通に毎度やってきたビラ撒きぐらいで「そこまでする?」という行動を示したのは与正氏にとっての都合の良い理由づくりだったとみています。

足を引っかけて相手が怒ったところで一気に喧嘩に持ち込む作戦でしょうか。よって韓国がこれに対して熱くなったら韓国の負けです。一方韓国が冷静さを保とうとすれば韓国国内から軟弱外交と厳しく糾弾されるでしょう。文政権にとっては大きな判断の分岐点に差し掛かったとみています。

金正恩氏の行動すら世界で「不思議ちゃん」として報じられていたのにその妹の与正氏となると宇宙人扱いかもしれません。外交的には重要な局面に入ってきていると考えています。

個人的な想像ですが、コロナでガタガタになった経済を立て直すために戦争に持ち込むシナリオがあるとすれば恐ろしい考えですが、経済危機からの脱却には戦争というのは歴史が物語っているので頭の隅に置いておいた方がいいかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月17日の記事より転載させていただきました。