銀行は現金がお嫌い 加速度的発展する金融のデジタル化

岡本 裕明

gontora/写真AC

先日、カナダで新たにビジネス用銀行口座を開設しました。すでにその銀行には別の口座を持っているので担当者と電話で話をすると口座開設に書類は一つもいらず、口座開設までは1時間と言われました。事実、その通り、しばらくするとネットバンキングには新しい口座ができています。

銀行口座開設は銀行窓口でいくつもの書類を書き込み、ハンコ(ないし署名)を押し、挙句の果てに手続きに3営業日かかります、ぐらい言われていた時代と隔世の感があります。

今回作った口座はデジタルアカウントでお金の出し入れは基本はネットとATMです。この口座を含む最近の傾向ですが、現金を銀行に預けると手数料を取られます。「銀行は現金がお嫌い」という時代が来ると誰が思ったでしょうか?

北米のビジネスではごく普通に流通していた小切手も最近は使用量が大きく減り、EFT(Electric Fund Transfer)に変わりつつあります。コストは口座開設時のパッケージ次第ですが、通常は口座維持費が月額数千円で、一定の預金高があればすべて無料というパッケージもあります。EFTは一回70セントから1㌦(60円から80円)程度ですので日本の電信送金がネットバンクでも330円であるのと比べて圧倒的差があることにお気づきだと思います。

一方、個人のお金のやり取りはInteracというEmailにリンクした送金方法をとる場合も多く、友人に送金する場合、資金送り手はインターネットバンキングの画面からInteracを選択して相手のメアドと送金金額、そしてお互いの共通パスワードを設定すればそれでおしまい。相手はメールを受信し、そのメールのリンク先を介して資金受け手の口座に入り、共通パスワードを入力すれば送り手からの入金が確認できます。しかもこの取引は無料なんです、無料!

北米に於いてデジタル化で何が変わったかといえば銀行の手数料ビジネスの中身が変わってきたと同時に極力テラー(銀行窓口)での処理を減らす努力をしているのが伺えます。そもそも現金の流通が極端に減ってきた中で小切手も時代の彼方に追いやられつつあります。ちなみに小切手もスマホで写真を撮れば入金できますので銀行に行く必要はもうありません。

そうなると銀行はなくてもいいのです。ところどころにATMがあればたまに使うという程度になるでしょう。実際、先日も取引銀行のバンクーバー本店の窓口である処理をお願いしていた間、20分ほどの間に来た客は数組だけです。コロナということもありますが、テラーの人たちは完全に手持無沙汰でした。これが新しい銀行のスタイルであってそのうち窓口そのものがなくなるでしょうから銀行強盗の映画やドラマが成立しなくなるかもしれません。

ところで日経にFRB議長がデジタルドルの研究に乗り出したと報じています。中国でのデジタル元の実用化が近いということもあるのでしょう。またカナダもデジタルカナダドルを3年程度で形作る研究に乗り出しています。キーポイントは携帯も銀行口座がなくても停電になっても機能するのが中央銀行が目指すデジタル通貨という点です。フェイスブックなど民間が発行するリブラというデジタルマネーが凌駕するならば中央銀行も十分にそれに対抗しうるものを準備するということです。

日本でデジタル円が議論されるのでしょうか?多分ですが民間銀行、特に地銀や信用金庫などの立場を考慮すると一定以上踏み込めない可能性があり、世界に完全に取り残される可能性があります。通貨がデジタル化すれば日本に地銀も信用金庫もいらなくなってしまいます。融資の審査はAIがやるのでネットで申し込む時代になります。みずほ銀行とソフトバンクがペイペイを通じてスマホ融資事業を開始しますが、これはまさにその第一歩目ということになります。

とすれば金融庁は全国津々浦々にある銀行、金融機関に業転をさせるしかないとみています。あと10年、現状を維持するのは難しいと思います。果たして変われるのでしょうか?大きな試練が待ち構えているようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月22日の記事より転載させていただきました。