吉村知事を評価するが総理候補は贔屓の引き倒し

2020年06月23日 14:00

今回のコロナ騒動で評価を上げた筆頭は吉村洋文大阪府知事で、彼についても『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』(ワニブックス)で論じたのでその一部を紹介したい。

吉村知事(大阪維新の会Facebookより)

テレビ映りもいいし、短い時間での説明能力もある。実務に対する把握能力も抜群かどうかは別として合格だ。パチンコ店の実名公表は称賛したい。地方の首長さんたちは、うっかりすると、個人的に損害賠償を要求される訴訟リスクをかかえているから臆病になるなかで、非常時に勇気を持って蛮勇をふるった。

医療関係者へのクオカード支給などセンスも良かった。松井大阪市長とともに、十三病院をコロナ専門病院にしたのもヒットで今後の模範となるだろう。医療関係者を相手に批判を怖れず大胆な策を講じられるのは、これまで、維新が蛮勇を振るってきたから怖い存在であるからこそだろう。

今回のようなケースでは、弁護士出身者は活躍しやすい。クライアントの信頼を勝ちとり、ややこしい問題を解決する勘所を心得て、相手からも悪意を持たれないという弁護士としての職業的技量がフルに発揮されていた。

橋下徹氏もある意味で弁護士として有能で、クライアントの満足を引き出すのは得意だろうが、相手からもそこそこ好感をもたれるかというとどうだろうか。政治家として向くには、相手からも恨まれないようなセンスもあるに越したことはない。

大阪での評判で「橋下や松井よりマシ」というような形でも自民党などからも評価されていることは貴重な財産だ。

今回は、維新コンビの活躍が目立ったし、大阪都構想の追い風にもなるだろう。ただし、維新のコロナ対応を論じる場合には、病院や保健所を統廃合などして手薄にしたあと緊急時などにどう補完体制を組むかまで手が回ってなかったことは確かである。

維新の改革で壊し屋としての功績は多々あるが、新しいものをつくるまでに時間がかかることは多い。特に医療関係などは新しいあり方が確立する前に何かあったら弁解がきかない。医療の合理化は必要で今回のコロナ騒動でそれにブレーキがかかることがあってはならないが、緊急時対応はなんらかのかたちで用意すべきだ。

また、今回の経緯のなかで休業補償という考え方がいろんな意味で混乱を来したと思うことは、小池知事について論じたとおりである。一番悪いのは、選挙目当てに、たくさん休ませておいて、豊富な財政資金をばらまいて票集めを策した小池知事だが、吉村知事らも休業は否定せずに国に財政負担を求めた。私は地方自治というなら自分たちで財源をつくる努力が先で、少なくとも国家財政を打ち出の小槌にすることを煽動すべきではないと思う。

しかし、吉村知事が今回のことでおおいに点数を稼いだことは事実だし、総理候補として名前があがるようになった。だが、知事として少し高い評価される仕事をしたからといって総理候補というようになるのは、日本人の愚かさである。

私は、かつて田中角栄がいったように、外務・大蔵・通産のうち二つの閣僚と、幹事長を含む党三役をふたつ経験したら総理の資格ができるというのは極端としても、首脳外交ができるかどうかということや、一地方の抜け駆けでなく、国全体のレベルを上げるような発想ができるかということの大事さを軽視しすぎだと思う。利害調整だって複雑さは地方と国ではぜんぜん違う。

江戸時代に地方の名君といわれた人は多いが、そうした人が将軍になってうまく仕事ができたかといえば疑問だ。そして、実際に紀州藩主として名君だといわれた德川吉宗が八代将軍となったわけだが、たしかに、殿様としての経験が生きたことも多いが、殿様の感覚で考えるからうまくいかないことも多かった。

たとえば、紀州の殿様なら新田開発をして米を増産したら紀州藩は全国の2%くらいだから米価に影響はないし豊かになれる。ところが、将軍になって関東など幕府領全体(直轄領400万石に旗本領など合わせたら全国の4分の1)でそれをしたら米価が下がるからかえって財政的困難さは増した。

石破茂氏も信奉者のようだが、里山資本主義などというのをもって、抜け駆けしたらチャンスはあるというような哲学では、町村長や鳥取県(石破茂の父親は知事だった)のような小さいところの知事なら成功するが、全国の地域が狭い市場に殺到すればみんな失敗するだけだ。

海外では地方の知事から大統領や首相になることも多いというが、アメリカの場合には、州が独立国家で国は連邦のようなところだし、それに、予備選挙の長いプロセスを通じて国家運営について徹底的に勉強もしなければならないし、大統領になったらどうするか模擬体験をすることになるが、日本ではそういう体験が望めないから、やはり、国会に出て閣僚でも経験してからはじめて総理候補たり得るのだろう。橋下徹だって総理やりたければ大臣やってからにして欲しい。

もうひとつは、外交だ。サンフランシスコ市長に慰安婦問題で毅然とした態度を示して姉妹都市提携を解消したのは痛快ではあったが、相手に打撃を与えたわけでもなく、国内的な政治的プロパガンダに今のところ終わってしまっている。

これは、また、回を改めて論じたいが、外交では首脳間や外相間などで相手に不愉快な思いをさせていいことはあまりない。安倍首相が成功しているのは、各国の首脳との良好な個人関係に拠るところが多い。外交についての見識があり、首脳外交でも即戦力として不安がないのは、現在の時点でいえば、岸田文雄氏と茂木敏充外相だけだと思う。その当たりは別の機会に論じたいが、吉村知事については、論じようがない。次期首相ではなく、10年後のホープということで議論するに留めてほしいものだ。

なお、コロナ問題については、あした6月24日(水)16時から、UU onlineが主催する『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』というオンラインセミナーに講師として参加するので、ご覧頂ければ幸いです。ただし、視聴には事前に会員登録(無料の必要)が必要なので、早めの手続きをおすすめします。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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