日本の不動産市場はそんなにダメなのか?

岡本 裕明

日経ビジネスも罪なタイトルの記事をだすものだと思います。最新号の特集の名は「限界不動産、新業態で暴かれる格差」とあります。毒々しさすら感じます。ですが、不動産事業に大きな変革期が訪れていることも事実でしょう。今日はそのあたりを見てみたいと思います。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

不動産の需要は個人の住宅取得目的とプロの投資家による利回り目的と個人投資家の相続税対策や副収入目的、それに法人需要などがあります。プロの投資家の投資対象は賃貸住宅から商業施設、オフィスに産業施設など多岐に及びます。それぞれの目的意識が違いますので個別にみる必要があります。

まず、個人ですが、日経ビジネスは「コロナが突き崩す都心回帰、経済優先のツケあらわに」と銘打って別荘暮らしに視点が向くなどの都心中心主義が変わるだろうと報じています。目線が女性チックだなと思ったのですが、やはり東大の大学院を卒業した女性の記者がお書きになっています。

田舎暮らしというコンセプトはかつて何度も何度もあったのですが日本では続いたことはないのです。どこを田舎とするのかその定義が難しいところですが、戦前は温暖な気候を理由に湯河原あたりは絶好のセカンドホームの場所でした。

今、田舎暮らしが注目されているというその理由はコロナであります。では記憶を2011年に戻しましょう。あの震災の後、人々は西へ西へと退避するということが報じられました。しかし、それがほぼ幻想だったのは放射能の影響が少しずつ国民に理解されてきたことと極端な考えからの揺り戻しでした。今回のコロナもずっと続く話ではないと考えれば何をもって田舎暮らしするのか極端な例であって説得力はないとみています。

一方、高くなった不動産に頭打ち感があるのはもう何年も前から指摘している通りです。日本の不動産は償却の仕組みと古い建物の価値を維持する発想に欠けており、資産形成になりにくいのです。特にマンションは最悪。よって最も賢い方法はサラリーマン時代は賃貸住宅で転勤も厭わない生活を続け、人生の方向が決まった頃に懐具合に合わせて無借金でどこか購入すればよいのです。(あくまでも賃貸している間にそれだけ貯めるという意味です。)老後の心配は老後にならないとわからないのです。

では投資家から見た不動産ですが、オフィス事情は苦しくなるとみています。都心の高層のオフィスに入る目的は「名刺」だからです。名刺を交わしたときの相手の会社の住所は一流の場所の〇〇タワーというブランドであって風格と見栄以外の何物でもありません。

創業者は皆さん、気がついているのですが、オフィスは一銭も稼いでくれないのです。なのに雇われ社長は自分がいかにも成功者で仕事ができて儲かっていると見せたいがために一流のところに入ります。このトレンドは崩れるとみています。「こんな場所では優秀な社員が集まらない」というのが理由だったのですが、そこが今回のリモートワークで崩れるのです。

北米では弁護士事務所と会計事務所などは一流の建物で広々とした受付に数多くのミーティングルームを備えています。その分、当然ながら請求書も高いのです。私は過去にあなたの立派過ぎる事務所にお金は払いたくないと申し上げて契約を切ったことも数回あります。仕事のクオリティは会社の所在とは無関係であることは私が肌身をもって感じていることです。

不動産の抱える最大の不安材料はターミナル駅周辺の百貨店や商業施設、そして飲食店などの入る雑居ビルです。ネットショッピングが主流になり、人の集積が変わるとなればターミナル駅周辺の商業施設は位置づけを変えていかない限り生き残れないでしょう。少し前に書いた地元回帰が強まるとみています。

一案ですが、商業施設にサービスのコンセプトを混在させ、ネット販売では不可能なサービスの確立を目指す方法は思いつきます。百貨店も物産市のような「売らんかな」的なイベントではなく、ノウハウ系イベントやミニコンサート、ファッションショーなどを行う展開はありだと思います。大型書店でも作家を招いたトークショーをやっていますが、商業施設に来てもらう工夫次第で価値は大きく変わるとみています。

日経ビジネスの「限界不動産」というのはあまりにも極端な人の目線を引くだけのタイトルです。不動産は人々の生活行動によりその在り方を変えていきます。今のままの状態が続けば限界不動産かもしれませんが、不動産は淘汰しながら新たな方向を探っている点が抜け落ちていると思います。勿論、コンクリートの塊が七変化することは難しいのですが、リノベという発想一つにしても思った以上に大きな変化をもたらすことができます。限界なんて訪れることはありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月25日の記事より転載させていただきました。