国宝工事をめぐる官製談合事件:安易な競争入札が招く不正もあり得る

2020年06月26日 11:30

事件の舞台となった竹生島・宝厳寺の国宝「唐門」(Wikipedia)

2020年6月25日付の日本経済新聞記事(「官製談合疑いで県職員逮捕 滋賀、国宝工事巡り」)より。

滋賀県警は25日までに、国宝や重要文化財の修理工事の競争入札で予定価格に近い価格を建設会社側に漏らし、不正に落札させたとして、滋賀県教育委員会の主査…を官製談合防止法違反と公競売入札妨害の容疑で逮捕した。

落札した業者の「社長…も公競売入札妨害容疑で逮捕した」(同記事)という。

一昔前であれば、発注者による予定価格の漏洩行為は談合の幇助のような機能を果たしていた、と考えてほぼ間違いなかった。予定価格は落札金額の上限を画するので、これが業者側に伝わると談合が容易になるからである。

予定価格が分からないと、談合によってどこまで価格を吊り上げてよいか談合業者側には分からず、誤ってオーバーしてしまえば入札が流れ(再度入札を繰り返せば結果は同じになるが面倒な話になる)、保険をかけて低い価格で調整すれば談合の利益が減少する。予定価格を漏洩することは、談合の実施を容易にするのである。

予定価格(を推測させる価格)の漏洩、予定価格付近での落札と報じられると、多くの読者は上記の「業者間の談合+発注者側の関与」を想起するだろう。

しかし、報じられた内容だけからするとそうとも言い切れないというのが、筆者の見立てである。

業者間で価格を吊り上げる談合がなくても、発注者には予定価格を漏洩する動機が存在するからである。それは他の業者ではない特定の業者に落札させたいという意向が発注者側にあり、その意向を汲んで当該業者が落札する意思を有するというケースである。

この場合、予定価格付近での受注価格は業者間の話し合いで吊り上げた結果としてのそれではなく、発注者側の意向としての価格である。一般的には癒着の関係があると予想されるが、何らかの特殊な事情で当該業者が落札することが発注者にとって合理的であると考えられる場合もあるかもしれない。通常は随意契約を利用すればよいのであるが、随意契約の利用がますます厳格に扱われる昨今において、競争入札を選択しておいてそれを恣意的に操作することが不正として立件される事件が最近目立つ。安易な競争入札の利用は却って不正を誘発する、ということに発注者はもっと敏感であるべきだ。

本件においては応札者は三者だったという。他の応札者と当該業者との関係が分からないと違反事実の性格もわからないのであるが、他の応札者が本気で落としにいっていない「お付き合い入札」の場合もあり得る。

別の報道によれば、他の二者は予定価格をオーバーしていたという。現段階では何ともいえない。本気で落としにいっている(業者間の談合がない)のであれば、当該業者の予定価格付近での落札の説明が苦しくなる。

これだけの情報だけだと、いろいろなシナリオが考えられる。三者とも本気で落札を目指している中、発注者が意中の業者に落札させるためにどうすればよいか。意図的に予定価格を低く設定し、それを漏洩すれば、意中の業者だけが予定価格内の応札をするように操作することが一つのやり方である。他の二者にとっては予想外に低い予定価格ということだ。

しかしこのままでは落札業者にとっては割の合わない受注になりかねない。そこで、発注者は契約変更や随意契約による追加工事の発注によって「割の合う」形に仕立て直すことで利益を調整することができる。

何故、他の二者は予定価格オーバーとなったのだろうか。より詳細なファクトが欲しい。

上記報道では予定価格ではなく「予定価格に近い価格を…伝え」たと報じられているのも気にかかる。これは「予定価格」ではなく「予算規模」のことなのだろうか。予算規模に係る情報提供は、実務上予定価格よりも緩やかに扱われているようだ。

しかし、予定価格を「ある程度」推測できる情報の提供が予定価格に準じて扱われるというのであれば、入札の公正を扱う官製談合防止法等の法律違反を考える上で、大きなインパクトを与えるかもしれない。

一般競争なのだから提供する情報は「すべての者に平等に」なされなければならない。持続化給付金の業務委託をめぐる一連の問題についても当てはまる指摘である。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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