異業種参入へのハードル

コロナは時計の針を進めたとされます。タイムマシーンに乗って数年ぐらい先の世界に突然来た感じをイメージさせると思ったらよいのでしょう。それまでのやり方が変わり、新しいスタンダードになる、そのために企業も人も着地点を必死になって探す、ということかもしれません。

サザンオールスターズが無観客コンサートを行い50万人が視聴したと報じられています。無観客ならではのカメラワークなどが話題になったようですが、驚く点は3600円の視聴料金に対して50万人が観たという点です。実際には一人ではなく複数で観た方も多いでしょうけれど仮に3600円×50万人で計算すると18億円にもなります。通常のコンサート会場には数万人しか入れませんから一枚8000円だとしても3億円程度です。計算上は無観客なのにとても割に合う新しいビジネスが生まれたということになります。

(ニトリネット:編集部)

(ニトリネット:編集部)

ニトリは昨年秋からアパレルに進出発表し、店も今年から展開していますが、似鳥社長はニトリの第二の柱にすると意気込んでおり、昨日の決算発表でもM&Aを積極的に進めるという趣旨の発言をしています。商品の価格帯はユニクロを意識したものでターゲットは30代から上の女性層を狙っているようです。アンチユニクロ派の人も当然いるわけですし、家にある全ての衣料がユニクロ製というのも抵抗があるでしょうからニトリのブランドネームを梃にある程度の成果は期待できるのかもしれません。

企業は売り上げを伸ばし、利益を上げることを第一主義とします。日経あたりで〇年連続増収増益と発表されたり北米企業が〇年連続で株主への配当額を引き上げたということがしばしば報じられるのは成長が第一義であるからです。成長するには多店舗展開を図るのが王道ですが、ニトリのように全国展開にそろそろ打ち止め感が出てくると次の柱を探すということになるのでしょう。

同じことはファーストリテイリングでも同じで同社も様々なチャレンジをしてきましたが、柳井正社長の著書にもあるように「1勝9敗」。柳井氏の場合、異業種参入どころか、関連事業でも苦渋の選択を何度もさせられています。コロナだから新たな世界に参入などと言っても「そうは問屋が卸さない」のであります。

日経の「私のリーダー論」でキリンホールディングスの磯崎功典社長が若かりし頃、ホテル事業を手掛けていたというのを読み、びっくりしています。キリンにもホテル事業があったのか、そして磯崎社長はホテルマネージメントのプロを養成するコーネル大学に行っていたのか、であります。

ホテル事業はバブルの頃、ゴルフ場経営と並び、経営者のあこがれの的でした。事業の見栄えなんでしょう。私の勤めていたゼネコンも当然ながらその両方を手掛け、私もその両方に携わりました。バンクーバーに赴任した1992年当時、数多くの日本企業が当地のホテルを所有していたのにも驚きを隠せませんでした。

もうほとんどの人は知らないと思いますが、ウィスラーのNo.1のホテルを日本を代表する製薬会社が所有していましたし、ある温泉リゾートを今は亡き商社が持っていたり、私鉄最大手がバンクーバーのランドマーク的なホテルを持っていたりしました。私の勤める会社も500室を超えるホテルを所有、運営していました。当時、その私鉄最大手が所有するホテルの社長と懇意にしていたのですが、社長曰く、「私はずっと鉄道マン。なので海外のホテルの経営はわからないことばかり」と。要はシロウトなんです。

私は不動産という枠組みの仕事を何十年とやっていますが、時として全く縁遠い事業もしました。レストラン、ゴルフ場経営、カフェ、レンタカーはよい例でしょう。非常に勉強になりましたが、今はどれも手掛けていません。

一方、私の現在手持ち事業の一つで大きく育ったのがマリーナ事業です。完成してから15年間も第三者の運営会社に運営委託していました。私がマリーナ運営を全く知らなかったからです。15年間、勉強させて頂き、自社経営に切り替え、その後の5年でそれまでの事業利益を倍増させました。

異業種参入というのは聞こえはよいですし、経営者の熱意も感じられますが、今の時代、相当ハードルは上がったとみてよいと思います。一つはホテル経営の話ではないですが、社員にその異業種経営のプロが少ない、ということです。ニトリのように資本力があればそれこそ、アパレルの優秀な人材を確保することも企業を買収することも可能でしょう。レナウンぐらいポケットマネーで買えるぐらいでしょう。しかし、そんなケースはそうあるものではないのです。

私のように極小会社がレンタカー事業をやっていた時も試行錯誤の連続でへとへとでした。それだけやって利益が出ても他の事業に比べ見劣りするのは規模の追求が出来ず、第2、第3の柱に育つ見込みを見いだせなかったからです。それゆえ、「趣味でやっているのでしょう」とよく言われたものです。

コロナで確かに事業環境は変わりそうです。だからと言って見ず知らずの事業に手を出すのではなく、自分の専門領域で変化球が出せないか、それこそ、魔球を生み出すスタンスの方が王道のような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月26日の記事より転載させていただきました。