「ビスマルクの像」を壊すべきか

2020年06月27日 11:30

ハンブルク市にあるビスマルク像(Wikipediaから)

「歴史は繰り返す」という。同じような出来事、紛争が何度も繰り返して現れてくる。当たり前かもしれない。歴史の主役を演じるのが人間である限り、その人間が織りなす歴史はどうしても同じ内容、出来事の繰返しとなる。イエスが登場した2000年前の人間も、21世紀の現代人も、同じようにいがみ合い戦っている。歴史は悲しいほど同じことを繰返しているわけだ。

その繰返す歴史に飽きた人が「歴史の見直し」を叫び、歴史の再考を試みようとする。米ミネソタ州のミネアポリス近郊で先月25日、警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件に誘発され、米国各地で人種差別抗議デモが行われているが、それを契機として、米国の建国史の見直し論争が出てきた。

米国の歴史は「清教徒の約束の地への建国」から始まったのではなく、その150年前、アフリカから連れてきた奴隷が米国に到着した時、1619年から幕開けすると主張するメディアや学者が出てきたことはこのコラム欄でも紹介した。もちろん、1776年の建国を信じる大多数の米国民は突然現れた新しい建国話に首を傾げ、困惑している(「米国の『不名誉な歴史の見直し』論争」2020年6月24日参考)。

米国の影響を受けて、欧州でも過去の歴史の見直しを叫ぶ声が出てきた。具体的には「植民地占領時代」の見直しだ。特に、フランス、英国、ベルギーなど植民地大国だった国では、過去の植民地時代の見直しを叫ぶ歴史学者、メディアが出てきた。

イギリス西部の湾岸都市ブリストルでは奴隷取引業者、エドワード・コルストン(1636~1721年)の像が倒され、ベルギーのアントウェルペンではベルギーの国王、レオポルト2世(1835~1909年)の静止画が剥がされた。同国王はアフリカのコンゴでの植民地政策が糾弾された。

植民地化時代では後進国だったドイツでも「鉄血宰相」いう異名を誇ったオットー・フォン・ビスマスク(1815~1898年)の植民地政策の再考が求められ、ビスマルク像を倒すべきかで議論が出てきている有様だ(独週刊誌シュピーゲル6月20日号)。

今年は朝鮮動乱(1950年6月25日開戦)70年目を迎えた。北朝鮮外務省のシンクタンク軍縮平和研究所は25日、70年目の動乱に言及しながら、報告書で「1950年代に米国が起こした朝鮮戦争の真相を天下に告発する」と表明し、朝鮮戦争は米国による北朝鮮への侵略との主張を繰り返していた(韓国聯合ニュース6月26日)。

日本を含む西側では朝鮮動乱は故金日成主席が中国の支援を受けて始めた侵略戦争と教えられているが、北朝鮮では米国が仕掛けた戦争と主張し、国民にもそのように教えてきた。

当方は朝鮮動乱について駐オーストリアの北朝鮮外交官と話し合ったことがある。当方が「動乱は北が始めた」というと、日頃は冷静な北外交官は顔を真っ赤にして「何を言うか。動乱は韓国と米国が始めたものだ」と主張し、お前とはもう話さないという。当方は北外交官の豹変ぶりに驚いたことを覚えている。

戦争の歴史はその戦争が終わった後も、その歴史の関係国、関係者の後孫が言い争う。韓国文在寅大統領の「反日政策」、「正しい歴史認識」はその典型的な例だろう。戦争の歴史は一度だけではなく、戦争が終わってからも続く。どのような戦争も完全に歴史書に定着し、その後再考、見直しの洗礼を受けなかった例は少ないはずだ。

ロシアのモスクワで24日、旧ソ連の対ドイツ戦勝75年記念行事が行われ、「赤の広場」で軍事パレードが開催された。ロシアが誇る軍事パワーが披露され、戦闘機は上空を旋回。モスクワ市民は「わが国はスゴイ」と感動するシーンがニュースで放映された。

プーチン氏は25日、国民の愛国心を高揚した直後、自身の大統領任期をさらに延長できる憲法改正を問う国民投票を実施している。歴史を自身の政治的野心に利用するのはプーチン氏だけではない。世界の独裁者や指導者は歴史を自分好みに書き換え、権力維持の道具とするものだ。

歴史の主人公たちは時代の経過と共に、その評価が変わるケースが多い。歴史的人物の像が「国の裏切り者」として後日、破壊される、といったことは珍しくはない。ソ連・東欧共産圏が崩壊した直後、スターリン像は破壊された。イラクではフセイン像の首が切り落とされた。北朝鮮の金日成・金正日の像だって、3代目の独裁者・金正恩氏が倒れれば、国民によって潰される運命にあるだろう。

人類は巨額の資金を投入して英雄像を建立するが、時が変われば、その像は破壊され、その際、時には血を流す。繰り返しになるが、如何なる歴史的出来事(人物)もその一回で完結することは珍しく、後世の人々によって尾びれ背びれがつき、時には全く異なった史実として定着していく。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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