文科省の「中学校スマホ持ち込み容認」が教員の激務につながる

和田 慎市

先週文科省から、中学生の学校へのスマホ持ち込みを容認する方針が示されました。

文科省 中学生“携帯電話持ち込み”容認へ(日テレNEWS24)

現状で7~8割の中学生がスマホを持っていますから、中学生がスマホを使うこと自体もはや当たり前ですが、今回文科省の持ち込み容認は、学校現場(教員)から見て問題が山積みなのです。

こうまる/写真AC

実際にスマホが中学校に持ち込まれた場面をイメージし、文科省へ10の質問をします(主に登校時教員に預ける方法を想定)。

  1. 規則を破り登校時教師に預けなかった生徒のスマホが盗まれた場合、学校はどう対処したらいいですか? (自己責任であっても校内で盗難が発生した場合、学校に管理責任は発生しないだろうか? )
  2. 登校時預かった生徒のスマホをどこでどう保管したらいいですか? またスマホの保管中、紛失したり誤って傷つけたりした場合はどうなりますか? (大規模校なら数百台ものスマホが預けられるが、実際に保管場所の確保や安全な管理ができるだろうか? また施錠出来ない、保管スペースがないことで紛失や破損のリスクはないだろうか? )
  3. 保護者が約束の「フィルタリング」設定をしなかったことが主な原因で、子供がスマホ関連の犯罪に巻き込まれた場合、学校は保護者や子供にどう指導したらよいですか? (保護者の管理責任を超えて、学校はどこまで指導に介入できるだろうか? )
  4. 放課後部活動に参加する生徒には、いつどのような方法でスマホを返したらよいですか? (部活動終了後では、全員に返却できるまで職員室を閉められなくなるし、毎日遅くまで居残る先生の善意に頼って返却を依頼していいものだろうか?)
  5. 部活終了時ではなく、帰りのSHRで全員のスマホを返却する場合、放課後学校敷地内(校舎内やグランド等)で、スマホ絡みのトラブル(盗難や悪戯等)が起きた時どう指導したらよいですか? (放課後は生徒が規定を破る恐れがあるため、教員の校内巡視等未然防止策の必要性が増し、超過勤務にならないだろうか? )
  6. 生徒がスマホの使用規定を破った時、スマホを預かる規約に同意したはずの保護者から、日割り計算で学校保管期間の代金を請求されたらどうしたらいいですか?(学校独自の裁量や規約は、法的な問題をクリアできるのだろうか? )
  7. 生徒の下校中の歩きスマホが原因で交通上のトラブルが発生した時、相手の運転手が学校の指導責任を追及してきたら、どう応対するのがいいですか?
    (法的には問題なくても、必然的に学校への苦情・クレームが増えないだろうか?)
  8. 近隣の中学校間でスマホ持ち込み規定が異なり、保護者から「うちの学校だけ厳しいのはおかしい!」と苦情があった場合は、どのように対処したらよいですか? (学校独自の判断でどこまで規定・運用ができるのだろうか? )
  9. いつもスマホを預けず教師の目を盗んで使用し、いくら注意しても全く効き目のない生徒には、どう指導したらいいですか? (義務教育である中学校では基本的に懲戒は難しいのだが、効果的な指導法はあるのだろうか? )
  10. スマホを登校時一括回収せず自己管理とした場合に、校内で盗撮や画像等の公開・拡散があったら、学校(教員)はどう対処したらいいですか? (明らかな犯罪行為や世間が周知する事態となった場合、学校の指導だけで収まるのだろうか? )

さて、文科省は上記の質問にどのように明快な回答を示してくれるのでしょうか? また、学校現場で想定される多くのトラブル、その対処に追われる教員業務の増加についてはどのように考えているのでしょうか?

今回の「スマホの校内持ち込み容認」で、いったいどのように教員業務が増えるのか、予想してみました。

ア. スマホ持ち込み規定・禁止事項の作成(定期的な見直しや改定の必要も)
イ. アの生徒・保護者への説明→承諾(特に違反行為への指導の周知)
ウ. 登校(SHR)時生徒のスマホの回収(学校で一括預かりの場合)
エ. 生徒在校時のスマホの保管(同上)
オ. 下校時のスマホ返却(同上)
カ. 校内におけるスマホ関係のトラブル・違反{授業中の使用、ゲーム使用、迷惑行為(盗撮・SNS関連)、盗難・破損など}への対処
キ. カの未然防止対策の実施(集会・HR時のモラル指導、校内巡視など)
ク. カに関し、生徒・保護者に対する指導や面談、家庭訪問の実施
ケ. 登下校時の歩きスマホに関するトラブル・苦情への対応(駆け付け、電話応対)
コ. 近隣地区、教育委員会管轄区内での情報交換や規定等のすり合わせ
サ. 犯罪・人権問題に至るケースでの警察・教育委員会など外部機関との連携

思いつくだけでもこんなに教員の業務が増えてしまうのです。コロナ禍で学校現場が混乱している中で文科省の「スマホ持ち込み容認」は、ますます教員の超過勤務を増やすことになり、働き方改革に逆行すると思うのです。

私自身、闇雲に「スマホ校内持ち込み禁止」を主張するつもりはありませんが、学校の現状を考えた場合、原則YESかNOか、方針をはっきりした方が学校(教員)は対応しやすいのです。ただ、持ち込み容認の場合、学校の指導の負担・限界を考えれば、原則「持ち込み者自己責任」という割り切りが必要でしょう。

持ち込み禁止と容認両方の私案を述べますと、

A案…今まで通り小中学生は原則スマホの校内持ち込み禁止

これまで蓄積された指導のノウハウがあり、生徒・保護者も納得しやすい(持ち込みを発見したら教員が即預かり→保護者への連絡等の指導が徹底できる)

B案…持ち込み規定遵守の上、自己責任でのスマホの校内持ち込みを認める

確かに家族内での緊急時の対応や所在確認はしやすくなるが、スマホに関するトラブルは一般社会に準ずる割り切った対応でなければ、学校(教師)の負担が大きすぎる。例えば、校内に個人の管理ボックスを設置し、登校したら各自でスマホを収納・施錠して自己責任で管理する方法が考えられる(実際には設置費用や中学生の自己管理能力の問題がネックになる)。

つまり、学校(教員)に原則スマホの管理責任はないものとし、通常の生徒指導は行うが、こじれた場合は最終的に当事者間又は外部機関(警察等)に届け出・相談するなどして解決を図るのです。特に犯罪にかかわること(盗難、盗撮、人権侵害等)は学校の指導の範疇を超えると判断し、一般社会同様警察等に任せるのです。

こうした学校の指導や責任の限界について、予め生徒や保護者に説明しておき、それでも持ち込む場合には自己責任で対処するしかないことを周知徹底します。

このB案が無責任だというなら、現状ではA案しかないというのが私の考えです。

果たして文科省・自治体・教育委員会には、運用後に予想される様々なリスクを背負う覚悟はあるのでしょうか?方針だけ示して、運用やトラブル対処は学校現場に丸投げでは、教員がつぶれてしまいます。

文科省にはぜひ学校現場の声をしっかりと聴き、教員の業務を増やさないような施策を実行することを望みます。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。
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