「リモートワークの普及で田舎暮らしする人が増える」という幻想

高幡 和也

studiographic/写真AC

リモートワークが可能なら田舎暮らしをしたい。そう考える人は少なくないだろう。

実際に官邸の資料(東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査  2018年10月調査)によれば、東京都から移住予定又は移住を検討したいと思っている人は38.4%であり、新型コロナの影響でリモートワークが身近になった今では、もう少しこの数字も高くなっているかもしれない。

リモートワークを余儀なくされたおかげで、新しいワークスタイルが生まれる可能性があるのは否定できないが、だからといって急激に地方移住者が増える可能性はかなり低い。

確かに、仕事のほとんどがリモートで完結する人で、尚且つ田舎暮らしを希望する人たちの中には地方移住を実行する人も出てくるかもしれない。

だが実際にリモートワークで完結できる職種は決して多くない。プログラマー、デザイナー、ライター(取材に行かない場合)、カスタマーサポート、これら以外にもまだあると思うが、その総数はリモートワークで完結しない職種より圧倒的に少ない。

リモートワークが可能な人たちが皆、田舎暮らしを望むなら地方移住者は増えるだろうが、そもそも分母が大きくない。

リモートワークでは一極集中が解消できない理由

リモートワークの普及が地方移住につながり、それが地方創生につながれば、地方の自治体にとってこれほど喜ばしいことはない。

地方創生の必要性(人口の維持、地域経済活性化など)は筆者も同意するが、それぞれの自治体がやみくもに移住者を募り、移住者のために長期的な都市計画に基づかずに郊外の乱開発を継続することなどには賛成できない。それで人口がわずかに増えたとしても、それが一過性なのは自明だ。

地方でも進む「集積」(画像は高松市:ZAKIJAPAN/写真AC)

現在、東京に関わらず不動産の需要は都市部の「駅近」に集中している。都市部の駅近という立地は、交通の利便性だけではなく、それ以外の都市機能(医療・福祉・子育て支援・教育文化・商業など)の恩恵を享受しやすいという特性を持っている。

人口や産業が集まる場所では、社会サービスも効率よく機能する。いま日本全体で取り組んでいる都市のコンパクト化が良い例だろう。

これまで、一極集中はまるで「悪者」のように扱われてきた。都市部に人口が集中することで郊外の低密度化が進行すると考えられてきたからだ。

しかし、そろそろ現実に目を向けるべきだろう。人口や産業などが一地域に集積することによって様々な利益が生じるという「集積の利益」はもはや是非を議論する余地もない。

魅力を無くした都市から人口や産業が流出していくのはごく自然なことだ。人口減少が続いている日本でも人口が増えているのは東京だけではない。地方でも都市ベースでみれば人口が毎年増加している「魅力ある都市」もたくさんあるのだ。

リモートワークが働き方を変えていく可能性は大いにある。これまで対面で行ってきた業務がリモートワークで済むことを新たに知った人や企業も少なくないだろう。

だが、人の働き方は変わっても、人の暮らし方まではなかなか変わらない。都市に暮らすとは、ただ交通が便利だから、ただ会社が近いからだけではないのだ。