独軍特殊部隊に潜伏する極右過激派

2020年07月02日 11:30

ドイツのクランプカレンバウアー国防相は独陸軍特殊部隊(KSK)の一部を解体する予定だ。国防省内部作業グループが6月30日、同国防相に提出した60項目の勧告が記述された報告書によると、エリート部隊のKSKには極右派傾向の隊員が多数潜伏しているというのだ。

訓練中のKSK要員(ドイツ語版Wikipediaより)

訓練中のKSK要員(ドイツ語版Wikipediaより)

ドイツの極右派グループは、既成の国家体制が崩壊する時を「Xデー」と呼び、その日に備えて万全の態勢を敷いているという。KSK(隊員数約1000人)の一部解体は軍内の極右勢力の動向を警戒した予防処置だろう。

KSKでは2017年から極右派隊員の不祥事が報じられてきた。17年4月の司令官のお別れパーティで“ヒトラー敬礼”をする隊員がいたという。パーティに招かれたゲストの中には自宅に大量の銃や爆弾を保持していた人物がいたことが後日、発覚している。今年1月の独軍事対諜報機関(MAD)の報告によれば、KSK内で少なくとも20人の隊員が極右過激派の疑いがあるという。

クランプカレンバウアー国防相は、「1996年に発生した人質解放作戦を想起しても分かるように、テロ対策では特殊部隊は不可欠だ」と指摘、今回の処置はあくまで一部解体であって、KSKの解体ではないと強調し、「特殊な任務を実行する部隊だけに、国民の信頼を得なければならない」と述べている。

ドイツでは2015年以来、イスラム過激派テロのほか、外国人排斥、反ユダヤ主義に基づいた極右過激派テロが増加してきた。例えば、旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。

ドイツ中部ヘッセン州カッセル県では昨年6月2日、ワルター・リュブケ県知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えた。同知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。

今年に入って2月19日、独ヘッセン州ハーナウ市内の2カ所のシーシャ・バー(Shisha Bar、水タバコ・バー)で1人の男が銃を乱射し、9人が死亡、多数が負傷するという事件が起きた。事件は同日午後10時、ヘッセン州の人口10万人余りの小都市ハーナウ(Hanau)のシーシャ・バーで男が銃を乱射した後、車で逃走。警察は大捜査網を敷き、ヘリコプターを動員して容疑者が乗って逃走した車を追跡した。

現地の警察によると、特別部隊が翌20日早朝、市内の容疑者の自宅に突入。2人の遺体を見つけた。1人は容疑者で、もう1人は容疑者の母親だった。ヘッセン州議会でボイト内相は20日、「容疑者は43歳のドイツ人男性で、これまで警察側にはマークされてきた人物ではなかった。押収したビデオなどを見る限り、外国人排斥、憎悪が犯行動機とみられる」と、極右的動機に基づくテロ事件との判断を強調した。

ちなみに、独連邦憲法擁護庁の報告書によると、ドイツ国内に約2万4100人の極右過激派がいる。その半数は戦闘意識のある過激派。約5500人は何らかの政党に所属し、約6600人は非政府機関、グループに入っている。

特筆すべきグループは、「旧ドイツ帝国公民」運動( Reichsburgerbewegung)だ。ドイツ連邦刑事局(BKA)によると、2017年、「旧ドイツ帝国公民」運動メンバーによる政治的動機に基づく身体傷害、扇動、放火、脅迫などの犯罪件数は771件だった。その内、619件は実行され、152件は未遂だった。116件は国家公務員への犯罪だ。314件は同国南部バイエルン州で発生している。

独週刊誌シュピーゲルによると、ドイツには約1万6500人の「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している。「旧ドイツ帝国公民」は、ドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(憲法に相当)を認めない。だから、政治家や国家公務員の権限を認知しない。独日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのコラムニストは「旧ドイツ帝国公民」運動を「ファンタジー帝国」と呼んでいる。彼らにとって共通点は、ドイツは過去にしか存在しないということだ。

▲終身刑の判決を受ける「旧ドイツ帝国公民」の1人、ヴォルフガング・P(2017年10月23日、ドイツ公共放送連盟ARDから)

▲終身刑の判決を受ける「旧ドイツ帝国公民」の1人、ヴォルフガング・P(2017年10月23日、ドイツ公共放送連盟ARDから)

独連邦憲法擁護庁は、「旧ドイツ帝国公民」運動を新しい過激主義運動と受け取り、警戒を強め、2016年から監視対象としている。ドイツでは2016年10月、バイエルン州で1人の「旧ドイツ帝国公民」(ヴォルフガング・P)が警察官を射殺した事件が起きた。Pは17年10月の裁判で終身刑の判決を受けた(「『ファンタジー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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