「鳩」は鷹を産むか 〜 鳩山元首相の長男、政界進出とその政策 --- 清水 隆司

2020年07月05日 06:00

元内閣総理大臣鳩山由紀夫氏の長男紀一郎氏が、新党を結成して、中央政界を目指すのだという。すでに新党の前身一般社団法人「日本先進会」なる団体を設立し、紀一郎氏が理事に収まっている。

YouTube「日本先進会」チャンネルより

当該法人サイトのトップページにはこう記してある。

日本先進会の挑戦——。
それは日本で初めて、完全に政策本位の新しい政党を、
ゼロから作ることです。

素晴らしい志だ、と感じ、おおいに期待した。ポリコレとパフォーマンスしか能がなく、立法府である国会で権力の疑惑を延々と追及しつづけては、政策的にさして優れていると思えない安倍自民に選挙の度あっさり負ける現状の左派系野党にうんざりしていたからだ。

紀一郎氏は政策理念として「最適厚生主義」という新しい思想を提唱している。

最適厚生主義? 紀一郎氏は日本先進会サイトで次のように定義している。

最適厚生主義

そうですか。わかるような、わからないような……。

理解を深めるため、紀一郎氏自らが出演して語るYouTubeにアップされた「日本先進会チャンネル」の動画「キックオフ㈰日本先進会の挑戦—政策本位の政党をゼロから作ろう—」で氏の提言を順次視聴してみた。

そして、「キックオフ②思想:「最適厚生主義」の提唱 —保守とかリベラルとか もうやめよう!—」の前半部を見て、思わず膝を打った。

この国の左翼の本質が、リベラルなどではなく、かつての「革新」つまりアナクロな社会主義者たちだ、と看破しているのだ。ポリコレに反する意見、自分たちと対極にある意見を見付けだすと、ただちにレッテル張りをし、黙らせるために、執拗な攻撃を繰り返す検閲趣味の連中が、自由と他者への公正・寛容を重んずるリベラルであるはずがない。我が意を得たり、と視聴を続けたが、すべてを見終えると、何か釈然としない思いが残った。

「一国平和主義」という言葉がある。自国の麗しい憲法を抱き締め、ひたすら祈っていれば、空から平和が降ってくる、というあれだ。紀一郎氏の最適厚生主義にも似たようなニュアンスを感じ取ってしまうのは、余りに訝った見方だろうか。

当たり前だが、日本は世界の中の一国にすぎない。冷戦時代、安定した世界構造の中で最も成功した日本は、現在、混沌、といってもいいグローバリズムの世界で複雑なパワーゲームの荒波に晒され、相対的に地位を低下させている。その現実を紀一郎氏はどう考えているのか。紀一郎氏の最適厚生主義は、まるで今の日本が鎖国下にあるかのような、スタティックで、自己完結的な理想に思えてならないのだ。

最適厚生主義に対する釈然としない思いは、財政政策の動画を視聴して、「最大化」した。

まさかММTを財政政策に採用する政党が出てこようとは。告白する。ММTを高いレベルで理解しているか、ともし正面から問われたら、正直首肯する自信はない。

だが、著名な経済学者の多くが懐疑的な理論を、すでにおよそ1千兆円の赤字国債を発行した国の政権が実践する、と内外に発信したら、その時いったい何が起こるだろうか。考えてみた。

  • 日本国債の格付けは、上がるか、下がるか。→ 当然下がる。
  • 財政健全化を志向しない日本国債は金融商品であり続けるか。→ 日銀しか買わない。
  • 円の基軸通貨ドルに対する交換レートは上がるか、下がるか。→ 当然上がる。
  • 資源のない日本で輸入は、有利になるか、不利になるか → 極端な円安で不利になる。
  • ハイパーインフレが起こったら、どうやって止めるのか → わからない。

改革型ММT——。
動画の発言でも頻出するので、よほど「改革」という言葉が好きなようだが、ММTの改革型が、単なる財政支出の監視強化、インフレ時の消費増税・日本国債の金利引き上げ(政府権限外)では心許ない。

この国のパン用小麦の自給率は3%程度らしい。食パン1斤買うのに札束を積みあげる未来。紀一郎氏の最適厚生主義はそんな未来に繋がらない、と断言できるだろうか。

紀一郎氏は政策のすべてを明らかにしていない。日本先進会がどのような政党に進化するのか、行く末はまだわからない。したがって、現時点で評価を下すのは時期尚早だ。

はっきりしていることはただひとつ。この国は——つまり国民は、自民党に代わって政権を担える政党の出現を切望している、ということ。政界有数の資産家のご子息が名乗りをあげたのは、とりあえずそれ自体慶事なのだ。

父由紀夫氏は、総理大臣在任中アメリカの有力紙ワシントンポストの記事で「loopy(間抜け)」と称されて、国民に恥辱を与え、退任後も、元総理の肩書の重さを理解しない言説や行動で国民を落胆させつづけている。しかし、当然ながら、父と子は別人格。血縁はすべてではない。

はたしてトンビならぬ《鳩》は鷹を産むのか。それとも蛙の子は蛙。所詮鳩の子は鳩なのか。答えを出すのは紀一郎氏自身だ。政策本位を掲げる紀一郎氏の今後を、淡い期待を胸に見届けたい。

清水 隆司 
大学卒業後、フリーターを経て、フリーライター。政治・経済などを取材。

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