スペイン前国王、資金洗浄などの容疑で起訴される可能性

2020年07月04日 06:00

ファン・カルロス1世(Wikipedia)

スペインの検事総長ドローレス・デルガド(サンチェス政権の前法相)は先月、最高裁を担当している検事ファン・イグナシオ・カンポに対しスペイン前国王ファン・カルロス1世が資金洗浄並びにその他税法上の違反を犯した疑いを調査する特命を発令した。

この特命チームには彼以外に同じく最高裁から3人の検事が加わることになった。ファン・イグナシオ・カンポは現役では税法違反の調査では最も熟練した検事だと評価されている。(参照:eldiario.es

なぜ検事総長が今回の決定を下したのか? というのは前国王を起訴するのに十分な証拠があると判断したからである。仮に、起訴されるような事態になると、国民の意見が二分する可能性がある。

一方のファン・カルロス前国王は弁護をハビエル・サンチェス・フンコに依頼した。サンチェス・フンコの前歴は脱税の取り締まりなどを専門に担当していた元検事だ。イグナシオ・カンポの先輩といった感じの人物だ。彼は2001年から税務関係が専門の法律事務所を開設している。(参照:elpais.com

事の発端は2008年にサウジの国王から1億ドル(107億円)がスイスのミラボー銀行(Banque Mirabaud)のラクム基金(Lukum Fundation)に振り込まれていたことが発覚したことであった。この基金の口座の本当の名義人は前国王であるはずだというのがスイスの検察の結論なのである。さらにそれを確証すべくスイスの検察はスペインの検察にさらなる関係書類の提供を要請している。

この1億ドルの資金の出どころは、スペインがサウジに建設した高速列車の仲介に前国王が一躍買って出たことへの当時サウジの国王アブドゥラ・ビン・アブドゥル・アズィーズ(2005-2015)からの謝礼のコミッションだと見られている。

スペインの国王は国家予算で充てられた資金以外の金銭活動は禁止されている。仮に、この1億ドルがコミッションであるということが判明すれば、前国王は税法上の違反に加え、さらに国王として禁止されているビジネス活動を犯したことになる。

前国王が起訴されるような事態になると、スペインの立憲君主制そのものの存続が問われるようになる可能性がある。

前国王はスペインが民主化になった当初は国王として、民主化への移行でイデオロギーの異なった政治家の間にあってそれを超越した象徴的な存在として国家をリード。国王としての任務を十分に果たしていた。

ところが、最近は女性問題や愛人を同伴し、アフリカで象狩りに行って腰を痛めて急遽マドリードに戻るといったスキャンダルが目立つようになっていた。

王家についての国民からの支持率の調査は2015年以降実施しなくなったが、最近では350議席の下院で70人の議員が前国王の脱税などについて調査委員会を設けるように要請している。即ち、前国王が調査委員会の公聴会に出席することを求めたのである。90年代だと立憲君主制の存在に反対の姿勢表明していたのは僅か20人の議員だけであった。(参照:elconfidencial.com

仮に最高裁で公判になって判事が情状酌量の姿勢を取ると、国民の方で裁判は誰にも公平ではないという結論に達する恐れがある。それは立憲君主制への国民からの信頼を失うことに繋がる恐れがある。ということで、その矛先は息子のフェリペ6世国王に向けられることになる。

立憲君主制を廃止するには上下院の3分の2の賛成議席が必要である。それは現状では達成は不可能であるからフェリペ6世の国王としての存続が揺らぐことはない。しかし、一旦多くの国民が現政治体制に疑問を持つようになると、将来的には国民の間で王家の存在を否定する動きが活発になる可能性も否定できなくなる。何しろ、フェリペ6世の曽祖父アルフォンソ13世はスペインから亡命したという歴史もある。勿論、当時の不穏な政治体制が影響していた。

さらに、現政府には王家を守る姿勢に欠ける面も否めない。何しろ、社会労働党と連立政権を構成している極左のポデーモスは共和国制の支持政党だ。

現在も前国王はサルスエラ宮殿に居を構えているが、フェリペ国王と彼の側近はガリシア地方或いはドミニカ共和国といった前国王の友人がいる場所に移住させることも検討していると言われている。メディアからの注目を逸らすためである。

今後の成り行きが注目される。

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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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