米中株価戦争

岡本 裕明

かつての戦争は人と人がぶつかり合いました。近代兵器の開発と共にそれを実践で使うのはあまりにも恐ろしく、戦争の形はどんどん変わっていきました。SNSを含む情報戦ではロシアがアメリカの大統領選に仕掛けたように相手国の民意を動かしてみたり、サイバー戦争では中国や北朝鮮が相手の情報を抜き取ります。トランプ大統領は関税戦争を仕掛け、米中間では膠着状態が続きます。

ここにきて新たな戦争形態に株価戦争が加わった可能性があるとしたらどうでしょうか?株価を高くし、国力を高めるというわけです。引き金はコロナと断言してよいでしょう。

ご承知の通り、コロナ禍で2〜3月にかけて各国の株価は溶解しました。それもすさまじい勢いで溶け続け、NYダウは一日の値動きが4桁になる日は普通という異常事態が発生していました。その時、各国はコロナは何者でどう対策してよいか右往左往し、自国のことで手一杯でした。

ところが感染症対策が進み、少しずつ回復の道筋が見えてきたと同時にアメリカや同盟国は武漢ウィルスと称し、中国発祥のウィルスだと主張、一方の中国は「何を言っている、おまえが持ってきたのだろう」と応じます。更にこの混乱に乗じ、中国は香港で国家安全法をを施行し、一時期の守勢から攻勢に切り替えました。アメリカは大統領選を控え、トランプ大統領としては動ける範囲が限定されます。そこで向かったのが米中株価戦争に繋がるのかとみています。

ハイテク企業が多く上場するアメリカ、ナスダック市場は3月に6600ポイントまで下げた後、現在、10400ポイントと史上最高値を更新し続けています。もともとの理由は金利が下がるとメリットが大きいハイテク株を利するという教科書通りの展開であります。

一方、多くの一般投資家はつい3カ月ちょっと前まで何が何でも売り叩き、Cash is Kingと当たり前のように言っていたのにコロナは収まっていないのに風向きが突然変わり、なぜそこまで買われるのか説明がつかないと考えていたと思います。では株価回復で国力とその威信を高め、コロナの行方がまだ見えない中、先を制するとすればどうでしょうか?

中国、上海総合指数。やはり3月に2600ポイント台の安値をつけた後、じわじわと戻し、6月末には2900ポイント台後半まで上がります。それでも上昇率は13%程度ですからコロナから一番先に経済活動が回復した国としては日米に比べはるかに出遅れていました。ところが7月1日から目が覚めるような上昇が始まります。7月1日に3000ポイントを回復したと思うと6日の終値で3332まで上げているのです。

理由は中国政府が株価引き上げ策を講じているからです。多分ですが、香港の国家安全法を施行したこと、香港が西側金融市場との懸け橋というイメージを上海中心に持っていこうとする中国政府の野心があるのかもしれません。それと思い出してほしいのは中国企業や個人が世界の不動産や企業を買いあさっていた背景はマネーが膨張していたことがあります。それが世界経済に極めて大きな影響を与えたことは疑う余地がありません。

とすれば中国政府が株価を再度、政策的に引き上げるのは至極あり得る動きであり、国民は喜び、中国経済も表向き、好循環が来ることになります。

これに対する防御策は世界の主要企業の株価を引き上げ、買収されにくくするしかないのでしょう。週末にウォレンバフェット氏率いるバークシャーハサウェイがアメリカのパイプラインの会社を1兆円で買収すると発表、遂に御大が動き出したというトーンで報じられています。実はパイプラインの会社は配当利回りが異様によく、またかなり安定しているインフラ中のインフラ業種なのです。

ハイテク企業に目線が集まりがちですが、実はこういう地味な企業こそ買収防止をしないと大変なことになるわけで下がった株価対策を一番にしなくてはいけないのです。中国マネーが攻めてくる前に株価を高くして防御するという論理がないとは言えません。

ただ、株価は業績や将来性があっての話。やみくもに買われれば当然崩壊するわけでどこまで許容するのか、気になるところであります。腹八分目を考えると個人的にはそれほど上昇余地はないと思いますが、株価ニューノーマル時代という勝手なスタンダードが生まれないとも限りません。今の時代は何があってもおかしくありません。予想なんてとてもできたものではありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月7日の記事より転載させていただきました。