大学のオンライン授業移行への波紋

北米の大学がオンライン授業への移行を次々と表明しています。アメリカだけではなく、カナダも同様であります。オンライン授業を取り込んだのは勿論、コロナがきっかけです。そもそも大学で講義を受けられないことから今年3月ぐらいから一気にオンライン化が進みました。

(いらすとや:編集部)

(いらすとや:編集部)

私どもは大学向けに教科書を卸している事業がある関係でオンライン授業が今後どのようになるのか、直接的に影響するので先生方とも時々やり取りをしています。当初は9月の新学期には通常授業に戻すというスタンスでしたが、最近になり、9月からもオンライン、場合により来年もオンラインという大学が出てきているのです。教科書はどうするの?という点は私どもは書籍のオンラインストアがあるしアマゾンもあるので学生さんには個別に教科書を販売でき、ビジネスとしては対応可能なのですが、大学の価値はそんなことでよいのか、非常に疑問を持っているのです。

なぜ、授業が再開できないか、といえば結局はコロナが理由で国境が開かない、よって留学生が入ってこられないという至極単純な理由が原点です。留学生はおおむね4-5月ぐらいまでには9月からの留学を決定し、準備に入らねばならないのですが、そもそも入国できない、大学も授業はオンラインとなればあきらめるしかありません。私の母校の大学もカナダに交換留学生を毎年各大学に送り込んでいますが、今年は早々に中止となっています。

ここにきてアメリカが別の論点を繰り広げ始めています。8日の日経夕刊に「『中国、米の知財窃取』 FBI長官、スパイ活動に警戒」と小さな記事が出ています。FBIのレイ長官が「中国は米国の知的財産を何度も盗み取ってきた」と批判。「その標的は防衛装備品から風力タービン、コメやトウモロコシの種子に至るまで全ての研究だ」と指摘したとあります。

実はこの記事には前段があり、5月30日のブルームバーグに「トランプ米大統領は中国からの大学院生と研究者の受け入れに国家安全保障上のリスクがあるとして、その一部について一時渡航者としての米国入国を拒否するよう命じた」とあるのです。中国からの研究者の一部が人民解放軍やそこに関連する大学と連携してアメリカの研究レベルでの情報が中国に筒抜けとなっている点を非常に懸念しているのです。

なら一般学生なら問題はないのか、といえば先日このブログで書いたように五毛党のように中国へあらゆる情報を提供し、かつ、北米で中国を正当化する活動分子が混じっていることにいよいよ本腰になって対策を打ち始めた可能性は否定できないように感じます。

中国はそもそも学生レベルでの政治的活動が非常に活発であります。古くは文化大革命(1966-76)のときの紅衛兵は学生が主戦力であるし、天安門事件も近年の香港民主化運動も学生が主導しています。例えばカナダのトロント大学で中国的思想を支援する活動や傾向が強いのは研究者、学生、支援者、資金など様々な背景が組織だって形成されているからです。

大学経営は留学生によって成り立っているといってもよいでしょう。学費が3倍近く取れるからです。アメリカには100万人以上の留学生が常時います。しかし、オンライン授業では学費3倍を払う価値はないと思います。それ以前に地元学生からもオンライン授業であればそもそもキャンパスライフができないのだから大学の授業料の算定基準に問題があるという声が出ています。(大学はそんなことは聞く耳持たずです。広げ過ぎた大学経営そのものが厳しくなっているからです。)

大学教育とは授業を全うにこなすのは目的の半分。あとは同じ釜の飯、同期、同窓という熱い契りが将来のビジネスや人間関係の形成に役立つもので学生もそれを期待しています。日本人の北米留学生でも卒業後にあいつとは同じクラスだったとそのつてを期待することもあるでしょう。

しかし、仮に数年後に「わたし、ハーバードのオンライン授業で卒業しました」といえば「オンラインでしょ?」と言われかねないわけで大学の価値を著しく遺棄するとみています。

北米の大学の中国化は防がねばならない一方で大学授業を正常化に戻すべくプランを立てることは喫緊の課題となるでしょう。本件はハーバードやMITがアメリカ政府(ICE=移民関税執行局)を訴訟するなど様々なベクトルがあり、面倒なことになりそうな気配が濃厚です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月9日の記事より転載させていただきました。