朝日新聞株主総会の内幕リポート 〜 “脱法理事長”大暴れ! --- 村山 恭平

2020年07月10日 06:01

東京・築地の朝日新聞東京本社(Lazaro Lazo/flickr)

村山 恭平(朝日新聞創業家)

おそくなりましたが、6月24日に開かれました、朝日新聞社の株主総会の情報が入ってきましたので、レポートいたします。

意外な大物OBが朝日側の経営問題を鋭く追及

予想というものは本当に難しいものです。今年は社主家の廃止という大きな定款変更の会社提案をめぐって、上野家と、香雪「脱法」持ち株会をはじめとする法人株主軍団との対決の構図を想定していました。

ところが、蓋を開けてみると、一番鋭く経営陣を追及したのは、なんと香雪美術館を代表して総会に参加していた広瀨道貞理事長(テレビ朝日元会長、現顧問)でした。コロナの影響で質問時間の短縮が求められている状況で、彼一人で延々と社長に質問をしたようです。内容は、朝日新聞社の経営問題。創業以来、原則として無借金経営だった新聞社が、昨年100億円の融資を受けて自社ビルの一部を買い上げた件をしつこく追及していたようです。

経営問題を追及する理由は、香雪美術館の公益活動には新聞社からの配当収入が不可欠であり、そのため新聞社の経営に不安が生じては困るということです。公益法人が株主総会でアクティブに動くことの是非は一旦おくとすれば、この配当にこだわる姿勢自体は、美術館として当然のものでしょう。

社長にしてみれば嫌な相手が出てきたものです。新聞社の役員とテレビ朝日の社長を歴任した大株主、社主家の怖さとOBの嫌らしさを兼ね備えた最強の「事業関係者」、そして一連の“脱法ガバナンス”の中枢にいる理事長なわけです。とにかくきちんと経営して配当を出せという要求で、労組とのリストラ団交の話まで出ていました。

社主家制度廃止採決、そのとき…

今回、理事長の今回の最大の見せ場は、社主家制度の廃止を決める議案の採決のときでした。定款の変更ですから有効投票の3分の2が必要で、もし香雪美術館が反対に回ったら議案は採否されることになります。

朝日・渡辺雅孝社長(朝日HP)

さて、採決。賛成者が一斉に挙手する中、まずは壇上の社長をにらみ、一呼吸遅らせてからニヤリと笑って小さく手を上げました。朝日の渡辺雅隆社長は一瞬心臓が凍ったのではないでしょうか。「今後、いつも会社提案に賛成するとは限らないからね」というメッセージも十分伝わり、株主によるマウンティングのお手本を見ているようでした。

この採決に先立って、社員でもある上野家の代表者は、10分弱の時間をかけて、「いかにこれまで上野家が新聞社に貢献してきたか」という話をして、社主家制度の存続を嘆願しました。一社員が社長の提案に異を唱えてまでした訴えでしたが、経営陣はこれを機械的に無視しました。殺人事件でも命乞いをする被害者を殺めると、死刑の確率がぐっと上がると言われています。今回の残酷な強行採決により、「もう上野家はいらない」という会社の意思が明瞭になったわけです。

話をまとめましょう。今回の総会を勝者と敗者という視点で考えてみます。

勝者は間違いなく、香雪美術館でしょう。社長にマウンティングしてリストラまで要求できたのですから。
敗者は、表面的には上野家のようですが、実は朝日新聞社特に社員だと思います。

以前の記事にありますように、香雪美術館を中心とした持ち株グループは、議決権は現在は25%ですが、近い将来35%にまで増える可能性があります。

このグループは、ハッキリ言えば美術館と放送局の野合です。仮に新聞発行が停止しても配当さえ確保できれば被害はあまりありません。逆に、公益法人や上場企業である彼等は監督官庁や自身の株主を抱えており、お家の事情から、配当の停止は絶対に許せない立場にあります。今回の広瀨理事長の発言で、この図式は一層鮮明になったと言えるでしょう。

言い方を変えれば、朝日新聞社は日刊新聞紙法を脱法的に解釈して、事業関係者の定義を変更したために、それに伴い「事業」の定義も変更されてしまったということです。「新聞を出すことよりも配当を出すこと」が事業の本質になってしまいました。

配当重視で表面化する「脱法」のツケ

さらに、今回、持ち株比率約15%の上野家を決定的に怒らせてしまいました。
彼等が香雪グループに対して、どんな感情を持っているかは微妙ですが、少なくとも「配当重視」という点では一致できそうです。新聞社の側も、社主の地位から引きずり下ろした一家に対して、「新聞発行継続のために配当はご容赦下さい」とは、普通は言えないでしょう(言いそうですが)。

過半数の株主が配当重視で経営を監視することになりそうです。朝日新聞社は昔から配当性向が極めて低く現状でも総額は3億にもなりませんが、問題はたとえ1円でも配当を出すには、黒字決算をしなければならないことです。

販売ダメ、広告もっとダメ、不動産コロナでダメ…という現状で、黒字決算を続けるには、徹底したリストラしかないはずです。幸か不幸か、記者の待遇と紙面の質との間にはあまり相関はないようです。また、紙面の質と新聞の売り上げにもあまり関係はなさそうです。慰安婦問題が起こしたころの社員の待遇は今よりかなり良かったはずです。

編集部員の大部分を解雇しても、情報の大部分を通信社から仕入れ、赤く色づけした記事を出せば、そこそこの読者は残りそうです。そして、配当は維持され大部分の株主はとりあえず、満足するというわけです。

また、朝日新聞社ほどイメージの悪い会社の社員が、どんなブラックな目にあっても、ネットを中心とする日本人の大部分は「ざまあみろ」以外の感慨はないでしょう。

結局、脱法株主対策による無理のツケを、社員とその家族が最初に払うことになりそうです。もちろん、編集系の役員も、近い将来、無事で済みそうには思えませんね。

村山 恭平

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