遠藤金融庁長官の地域金融機関への最後の忠告

7日の各紙報道によれば金融庁の遠藤俊英長官が退任して、その後任に金融国際審議官の氷見野良三氏を充てる人事が固まった。氷見野氏は、自他共に認める国際派で、これから新型コロナショック対応で国際的な当局間の連携が必要となるときだけに、うってつけの配置だ。

退任する遠藤氏(金融庁サイトより)

一方、退任することとなる遠藤長官は、就任数か月前の2018年4月にシェアハウス「かぼちゃの馬車」に関わるスルガ銀行の不正融資事件が発覚した。同年7月に就任した遠藤長官は早速その処理に努めたが、その後も在任期間を通じて地方銀行や信用金庫などの地域金融機関の改革に精力を傾注してきた。

その遠藤長官が先週、時事通信社主催の金融懇話会で地域金融機関の経営について講演をしたが、これはいわば遠藤長官の地域金融機関への最後の忠告ともいえるものだったと私は思う。

長引く日銀のマイナス金利政策の下で、地域金融機関を含めた金融機関の貸出の利鞘は縮小を続ける一方、地方の人口減少や産業構造の変化など様々な理由から地方経済は衰退しており、金融機関経営は厳しさを増している。

一部の金融機関は他の金融機関との統合や異業態との資本提携などに動き出しているが、まだ大部分は、このままではいけないと思いつつ、ゆでガエルになりつつある状況だ。

そして今、新型コロナショックで不良債権の急増が懸念され、お湯の温度が急激に上昇しようとしている。8日のブルームバーグのインタビュー記事の中で遠藤長官は「悠長な検討している場合でない」と言っている。地域金融機関は、すぐに改革に乗り出さなければ後がない。

地域金融機関が変えるべき点は、ビジネスモデル、組織、人事制度、企業文化など山のようにあるが、その一端を取り上げると支店の整理の問題がある。

現時点での3つのメガバンクの支店の配置をみると、全ての県庁所在地にまだ支店を維持しているみずほ銀行を除き、残りの2メガバンクが全く支店を置いていない県が10県ある。これは2メガバンクにしてみると支店を持つコストに見合うビジネスチャンスがそこにはないということだ。

もちろん、メガバンクの融資等の相手となる大企業がないとか、良い企業は地域の金融機関ががっちり抱えていてつけ入るスキがないといったこともあろうが、基本はその地域の経済力が衰えてきていてコストに見合ったリターンが期待できないということなのだろう。

写真AC

県内GDP(名目、2017年度)で47都道府県中46位の高知県を例に挙げてみよう(ちなみに県内GDP47位の鳥取県は、島根県の金融機関の進出が多いのでここでは高知県を例にとる)。

高知県の県内GDPは日本のGDPの0.44%でしかないが、県庁所在地の高知市内だけで地元の地方銀行、第二地方銀行、信用金庫の支店(有人店舗)が83ある。これに他県の銀行の支店や郵便局、農協等を入れると130以上になる。

多額の人件費と物件費をかけてそんなに多くの支店を持って競い合う必要があるのだろうか。支店は地域のお殿様企業としての存在感を示す道具なのだろうか。それとも、いつかは支店長になることを夢見る銀行員の士気を維持するためなのだろうか。

支店がなくなると預金者が不便をすると言うかもしれないが、ATMで預金の預け入れと引き出しは十分だし、そのATMもコストを考えるとコンビニのATMに切り替えるべきだ。

そう言えば6日の日経で大手銀行のATMの設置台数をセブン銀行のATMの台数が追い抜いたことが報じられていた。

また、もっとコストを抑えようとすれば、ATMではなく2年ほど前から日本でもできるようになって、いまだに大して使われていないキャッシュアウトという手段もある。これは地域のスーパーや商店のレジで一定額までキャッシュカードと暗証番号で預金を引き出すことが出来る制度だが、まるで金融機関に相手にされていない。

さらに言えば、キャッシュレス化の中でビジネスを作っていくことも考える必要がある。

新型コロナショックの影響が長引くことが予想される中で、マイナス金利政策は当分続くと考えざるを得ず、黙っていてもたっぷりと利鞘が稼げた時代は終わった。また、融資業務自体、AIの進化とともに異業態との競争が厳しくなることも予想される。

地域金融機関はビジネスモデルも、経営形態も、企業文化も今大きく変えなければ生き残れない。