中国に牙を向くアメリカ議会 --- 鎌田 慈央

2020年07月11日 06:00

鎌田 慈央(国際教養大学3年)

何も決まらないアメリカ議会

アメリカ議会内での共和党と民主党の政治的対立が先鋭化している。その最も大きな原因はアメリカ議会の上院と下院のねじれ状態だ。

NASA HQ PHOTO/flickr

アメリカ国内で法律案を制定するためには、各州の人口比に応じて選出される下院、そして各州から二人ずつ選出される上院の両方から過半数の賛成票を得る必要ある。しかし、現在の下院の多数党は民主党、上院の多数党は共和党である。それゆえ、仮に下院で民主党によって法律案が可決されても、上院で多数党である共和党がそれを潰すことが可能になっている。

2019年度、下院を通過した法律案は約600本あったものの、その中で上院を通過したのはたった94本に過ぎなかった。下院を通過した内の約20%の法案しか実際の法律として制定されない現状は、アメリカ国内が政治的に分断していることを如実に表している。

しかし、そんな分かり合えないように見える二つの党は、ひとつのイシューに関しては同じ方向を向いている。中国に対してどう向き合うかについてである。

次々と採択される中国を刺激する法案

トランプ氏が大統領の座に就いた2017年以後、アメリカ議会では次々に中国を刺激する法案が超党派の協力によって制定されている。

例えば、中国が自分の国の一部と主張し続けている、台湾との関係を深めるための法案がアメリカ議会を通過している。2018年に制定された台湾旅行法により台湾とアメリカ政府の高級官僚がお互いの国を往来することが可能となった。また、2019年に下院を通過した台湾保証法という台湾をアメリカの軍事演習に参加させることを政府に促すことを目的とした挑戦的な法案もアメリカ議会では審議している。

それに加え、ウイグル自治区や香港で行われている中国当局による人権弾圧に対してもアメリカ議会は積極的に介入している。2019年には香港の高度な自治を強権的な力で抑え込もうとする中国をけん制するために香港人権法を採択している。

また、同じ年に両院を通過していた、ウイグル人権法が2020年6月にトランプ大統領によって署名されたことによって、ウイグルでの人権弾圧に関与した中国当局者に制裁を科すことが可能となった。

そして、注目すべき点は、これらの法案がほぼ満場一致で法律として制定されている点だ。日ごろから民主党と共和党が対立しているのが嘘のようである。

なぜ中国に対して強硬的な連邦議員が増えたのか?

アメリカ議会がなぜここまで中国に対して強硬的であるのかを説明するための仮説として、筆者はリーマンショックによって米有権者が受けたショックが対中強硬派の議員を誕生させていると考える。

住宅バブル崩壊が契機として全世界中に広がった通称リーマンショックと呼ばれる金融危機の影響でアメリカ庶民は甚大な被害を被った。

その一方で、アメリカ政府は議会と連携して、住宅バブル崩壊の根本原因を作った金融業界や大企業、いわゆるエリート層に対して大規模な救済措置を講じた。しかし、庶民は自分たちの生活を台無しにした加害者が救済される現状に激高した。

そして、その怒りは新しい政治勢力を台頭させることに繋がった。2009年ごろから、ブッシュ、オバマ政権の下で実施された大企業救済措置への反発から、大きな政府の出現を問題視する共和党内で保守的な勢力がティーパーティー運動という政治キャンペーンを活発化させた。この運動によって、共和党は2010年の選挙で下院の多数党としての地位を復活させた。

また、共和党のみならず、同じようにエリート層への反抗的な姿勢は民主党内でも表れている。バーニーサンダースやオカシオコルテスといった社会主義的な政策を打ち出す政治家たちは、既得権益層からは嫌われているが、リーマンショックの影響に今でも苦しめられている若年層からは絶大な支持を得ている。

そして、反エリート層を標榜する政治家が議会内で多くなっていくということは中国に対して配慮した法律を作る必要がなくなることにつながる。なぜなら、中国との貿易、中国内に工場を移転することで儲かっている、エリート層の声を代表する政治家たちの力が相対的に弱くなるからである。それゆえ、アメリカ国民が持つエリート層への強烈な不満を一身に背負った共和党と民主党の政治家たちが中国に対して挑戦的な法律を作ることが容易となっている。

米中対立はさらに激化する

アメリカ全土を襲ったコロナ、社会不安、暴動などの影響によりトランプ大統領の支持率が急落し、バイデン大統領誕生が現実味を帯びている。そして、一部の識者の間ではバイデン元副大統領がいざ大統領になったら中国に対して宥和的な態度に出るのではないかという見方がある。

しかし、アメリカ議会が急速に対中強硬になびいている以上、バイデン氏はその流れに抗うことができない。

米中対立の激化はここからが本番なのである。

鎌田 慈央(かまた じお)国際教養大学 3年
徳島県出身。秋田県に所在する大学にて日米関係、安全保障を専門に学んでいる。2020年5月までアメリカ、ヴァージニア州の大学に交換留学生として勉強していたが、コロナウィルスの感染拡大により、日本に帰国し、実家に帰省中。

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